チーフ・アナリスト大槻 奈那が、金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信します。
第6回 「寿限無」と銀行のブランド価値
古典落語に「寿限無(じゅげむ)」という演目があります。「寿限無」とは、限り無い長寿のこと。子供の健康長寿を願うあまり、おめでたい言葉をつなげていき「じゅげむじゅげむ...」で始まる136字もの長い名前を付けてしまうというお話です。
これと少し似た話が金融業界にみられます。統合時に旧社名をつなげて、「三菱東京UFJ銀行」「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命」などとするのがその例です。海外でも、「バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ」などがあります。子供の長寿ではなく、統合するグループ内の平穏を目的とするという点が寿限無との違いでしょうか。
これは長すぎるということで登場したのが、解散を発表した「SMAP」型。グループ名の由来には諸説あるようですが、"Sports Music Assemble People"、または、兄貴分の光GENJIのメンバー名の頭文字を取ったとのこと。このパターンとしては、「MS&AD」や「東京TY」があります。更に、公平を期すため、全く新しいグループ名を付けるケースも増えています。「フィデア」「きらやか」「じもと」「トモニ」「コンコルディア」「めぶき」。これらの母体行が全てさらりと言えれば、なかなかの金融通ではないでしょうか。
しかし、SMAPのように独自の魅力が浸透すれば別ですが、どこでも類似の商品を扱う銀行グループの新社名がブランド・イメージを確立するのには時間がかかります。
実際、銀行の世界最高ブランドは、1852年以来創業者2名の名前を維持する米「ウェルズ・ファーゴ」とされています(FT誌他、2016年)。同社は、邦銀最高位のMUFGの3倍を超える、4.5~6兆円ものブランド価値を有しています。98年に他の地銀と対等合併しましたが、商号は「ウェルズ・ファーゴ」としました。ブランドを生かすためと言われています。
このままマイナス金利が続けば、邦銀間の統合の増加は避けられないでしょう。差別化が難しい銀行の最大の武器はやはり安心と信頼のブランド力です。グループ内の政治的配慮ではなく、小さくてもブランド力がある銀行の名前を採用するなど、名より実をとったネーミングで臨んでほしいところです。記憶力が鈍るにつれ、切実にそう感じる今日この頃です。
マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那