チーフ・アナリスト大槻 奈那が、金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信します。
第8回 「すなば珈琲」にみる地域活性化の要件
先週末、弊社セミナーで九州に行きました。お越しいただいた皆様に改めて御礼申し上げます。
セミナー前日、取材に行った金融機関近くで、時間調整のため喫茶店を探しました。ところが、ビジネス街には一軒も見つからず、汗だくのまま歩き回ること20分。ようやく商店街のスターバックスに倒れ込むとともに、世界に広がる24,000店の威力に感謝しました。
しかしそのスタバですら、昨年5月まで全くない県がありました。知事の「スタバはないが日本一のスナバはある」という発言で一躍有名になった鳥取県です。
スタバの鳥取出店決定で最も大きな衝撃を受けたのは、その1年前、知事の発言をもとに地元企業が創設した「すなば珈琲店」でした。スタバを迎え撃つ広告では、黒船をバックに「いよいよこの時がやってまいりました」と"大ピンチ・キャンペーン"を実施。スタバのレシートを持参すればコーヒーを半額で提供するなどという大胆な内容でした。
このケースは、少し聞くと、奇をてらった戦術のようにも聞こえます。しかし、ヒットの原因は恐らくそれだけではありません。
第一に、地元の潜在需要の高さです。鳥取市の一世帯が年間に購入するコーヒー豆等は、2012-14年の平均で3,126gと、実は、県庁所在地の中では京都に次ぐ第二位の高さでした(総務省家計調査統計等)。
第二に世界のコーヒー業界の「第三の波」に乗っていたこと。第一の波とは、1960年代までの珈琲の大衆化の時期で、第二の波は スタバなど品質重視の高級チェーン店の時代。そして、この数年で広がりつつある第三の波とは、こだわりの豆をその都度、バリスタが手ずから淹れるというスペシャルティ・コーヒーの時代です。そこで取り入れられているのは、すなば珈琲を含む日本の伝統的なコーヒー店のスタイルです。
人口減少地域で、新たなビジネスを起こすことは容易ではないでしょう。すなば珈琲の例は、ネーミングやキャンペーンが奏功した幸運な事例かもしれません。しかし、地元の潜在需要や、世界的な潮流に合致していたことも無視できない要素です。こうした機会はいろいろな分野に眠っているかもしれません。第二第三のすなば珈琲の登場を待ちたいと思います。
マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那