チーフ・アナリスト大槻 奈那が、金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信します。
第10回 「和子社長」にみる女性リーダー台頭の現状
突然ですが、「和子」という名前は何と読むかわかりますか。そう、「かずこ」が正解です。恐らく現代の日本人で読めない人は殆どいないでしょう。しかし江戸時代には、"キラキラネーム"の一つでした。国学者の本居宣長は、この名前を「わ」ではなく「かず」と読ませるのは難しいとして、随筆「玉勝間」の中で批判しています。
しかし、この「和子」という名前、今や日本の女性社長の名前ランキングでこの6年間不動の1位を占めるメジャーな名前です。
全国の女性社長の名前のトップ10は、それ以外も全員「子」が付く名前です(東京商工リサーチ、2015年)。トップの「和子」は、「昭和」に由来し、1920年代後半から1950年頃まで大流行しました。こうした比較的伝統的な名前がトップの座を守っているということは、それだけ高齢の女性社長が多いことを示しています。そして、その背景には、歳をとってから、事業を世襲して社長に就任するケースが多いことがあるとみられています。
一方、大企業で経営者に抜擢される女性は世界的にも少なく、OECD先進諸国の上場企業の役員に占める女性の割合は2割前後とされています(Catalyst社、2014年)。中でも日本は最低の3.1%です。
米国の元財務長官であるローレンス・サマーズは、2005年に女性蔑視発言が原因でハーバード大学長を辞しました。彼は、自然科学研究者に女性が少ない理由として、能力の平均には男女差はないけれども、男性の能力の分布は女性より"ファットテイル"、つまり、両極端な人の割合が多いので、上位だけをとると男性が数倍多くなる可能性があることや、時間的な制約への忍耐、女性の業績などに対する社会通念などを挙げました。これらの一部は経営の世界にも当てはまる要因のように思います。
女性の進出は労働力減少に対する有力な解決策の一つです。税制改正などで制度面は改善しても、サマーズ氏が挙げる社会的通念などは簡単に変えられるものではありません。
来月、米国で初の女性大統領が誕生するかもしれません。それ以外にも、今年は、イギリスのメイ首相や東京都の小池百合子知事など、女性の政治リーダーの当たり年です。これらの女性リーダーの活躍ぶりが世界に報じられることで、なかなか変えにくい社会通念を徐々に変革し、若い世代の女性進出を後押しすることを願いたいものです。
マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那