アナリスト夜話(やわ)

大槻 奈那

チーフ・アナリスト大槻 奈那が、金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信します。

大槻 奈那 プロフィール

第18回 米国の資産価値は行き過ぎなのか?

本日、「東洋経済オンライン」で、住宅ローンのブームについて書かせていただきました(住宅ローンの借り手も条件も限界にきている)。金利引き下げに加え、住宅ローンを借りるとポイントがたまり、それを牛肉やフルーツに交換できるという特典や、当初金利ゼロキャンペーンなど、あの手この手の特典で、今期の住宅ローン実行額は前年比3割の大幅増となっています。

日本の住宅ローンの借り易さはいまや世界有数です。ローン金利は1%割れが当たり前ですし、場合によっては頭金無しの借り入れも可能です。期間も長めで、最近は最長50年まで借りられます。住宅ローン残高の1%の税額控除という税制メリットもあります。

但し、低金利の恩恵を本当に受けられている人は、マイナス金利導入前に借りていた人々です。現在の住宅ローンの新規実行金利は、昨年から平均0.4%程度低下しているので、例えば月々15万円のローン返済を行っていた人は、借り換えれば、月々の支払いは2%・3,500円くらい節約できます(20年間の元利均等払いで計算)。ところが、東京のマンションは昨年8%程度上昇していますので、同じ物件を新しく買う場合、逆に、月々の支払い額は昨年よりも3%・4,700円くらい上昇してしまいます。そのような背景もあり、日本では少し不動産市場が落ち着きを見せています。

一方米国では依然として上昇が続いています。ニューヨークのマンション価格は、過去3年で20%上昇し、史上最高値となっています。米国では今週のFOMCでの利上げは確実視されています。不動産価格の上昇ペースをみていても、利上げは自然な流れだと思います。

問題は、利上げで好調の不動産市場が冷やされすぎないかという点ですが、過去の経験則では、資産価格にショックが発生するのは、金利上昇などに加えてもうひとつ制度変更などの「何か」が重なった時です。日本のバブル崩壊前の1990年の日本の貸出金総量規制や地価税導入、米貯蓄銀行危機前の80年代末のバーゼル銀行規制合意、サブプライムショック前の格付け会社の格下げラッシュなどが該当します。

トランプ米大統領は、相続税の撤廃や、不動産の償却メリットなど資産価格にプラスの政策も掲げる一方、人の流れを止める保護主義や、借り入れ金利の課税所得上の取り扱いなどマイナスの政策もみられます。市場の流動性は高いため、当面過度な心配は不要でしょうが、市場が活況を呈しているだけに、金利上昇ペースとともに、制度的な別の「何か」が加わらないか、注視したいところです。

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