チーフ・アナリスト大槻 奈那が、金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信します。
第32回 安定政権にこそ期待したい"不人気政策"
22日に行われた衆議院議員選挙では、自民党の圧勝となりました。今回の選挙は、野党が消費税増税凍結を掲げる一方、与党は消費増税路線を維持して戦いました。
消費税は、安倍政権が2014年に引き上げるまで、争点にすると政権が倒れるといわれるほどの"鬼門"でした。79年の大平内閣は「一般消費税導入」を表明して議席を大きく減らし、89年の消費税導入時には、リクルート問題も重なった竹下首相が辞任に追い込まれました。97年に5%に引き上げた橋本内閣も、アジア通貨危機にも見舞われ、辞任に追い込まれました。
しかし安倍首相は、8%への消費増税もやり遂げ、今回の選挙も増税の前提で勝利しています。
ただ、まだまだ財政的には難問山積です。与党は、消費税の増税分は「全世代型社会保障制度の構築」に充てるとしています。既に、幼児教育は低所得者層と多子家庭、義務教育については無償化されていますが、それでも完全無償化には1兆円余りの公費がかかります。
教育が社会に与える効果は、就学前の幼児期の教育の充実が最も大きいとされているので納得できなくもありません。しかし、幼児教育に次ぐ論点は、高等教育の無償化です。これについては、まだ政府が公式に表明しているわけではありませんが、仮に大学まで無償化したら、現在の年間防衛予算と並ぶ5兆円規模の財源追加で必要となります。
しかも、日本は、アルバイトに費やす時間が米国の数倍に上る一方、OECD諸国の中で4年間きっかりで卒業できる学生の比率が最大となっているなど、大学教育の質が問われています。そのような中で、欧州に例があるからといって大学授業料を無償化しても、人的資源への効率的な支援にはならないと思われます。
既に政府は、財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化目標の期限をあいまいにしてしまっています。財政再建は、安定政権でしか実行できません。大勝で緩むことなく、今こそ"不人気"を恐れず財政再建に向かって欲しいものです。