チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。
高配当の銀行株:配当確度のチェックポイント~今期配当維持の可能性大。来期以降も収益は厳しいが一部で還元拡充も?
マイナス金利を受け、高配当銘柄が見直されている。とりわけ、先月の株価下落に伴い、金融株の配当利回りが高まっており照会も多くいただく。実際、下記の通り、日経225の高配当銘柄のうち、20社中10社を、銀行や証券といった金融機関が占めている(図表1、2月26日終値ベース)。
これらの銀行の配当は、今後も維持されるのか。銀行業界に独特の規制等も関係していることから、配当の確度を見るためのチェックポイントを確認したい。
チェックポイント①:計画利益達成の確度
2015年12月期までの9ヶ月累計の当期利益は、既にほぼ全行で通期会社計画の4分の3程度かそれ以上となっており、計画線かそれを上回る出来栄えである(図表2)。
例年第4四半期は、不良債権費用が嵩むという季節性があるものの、ここまでくれば今期の利益が会社計画を大きく下回ったり減配が俎上に上ったりするようなリスクは極めて低いだろう。
さらに、株価の下落に加え、今年度自己株取得の実績があるMUFG(8306)や一部地銀、近年行っていないが資本比率に余裕が出てきたSMFG(8316)などでは、5月の通期決算発表時期に自己株取得を発表する可能性もあるだろう。
もっとも、来期の収益については課題も大きい。2月2日にレポートした通り、マイナス金利で銀行の収益は確実に悪影響を受ける。為替動向や世界経済の鈍化なども勘案すると、来年度の会社計画はせいぜい前年比横ばい程度に留まると予想される。このため、来年度も今期と同じ配当額が維持されるためには、次項で触れる配当性向に余裕があることが条件となるだろう。
チェックポイント②:配当性向の余裕度
邦銀各行は、最近でも何度か減益決算を経験してきたが、それでも一株当り配当額は一貫して引き上げてきた(図3、4)。
このため、配当性向も徐々に上昇してきており(図表5)、現在大手行各行では概ね30%前後が目線となってきている(因みに、あおぞら銀行(8304)では50%、ゆうちょ銀行(7182)では50%以上)。後述するように、銀行では資本規制が重石となっていることから、他の業界ほど自由にこれらの配当性向を高めることはできない。しかし、現在配当性向が30%前後となっており、資本に余裕があるような銀行であれば、更なる自己株取得を含む総還元性向を40%程度まで引き上げることは充分可能とみられる。
チェックポイント③:新たな社外流出規制に対する資本余裕度
リーマンショック後導入された新たな金融規制の一つに「資本保全バッファー」の積立てというものがある。これまでの最低資本比率に加え、一定の資本バッファーを持っていないと、利益が出ていても配当や役員報酬などの社外流出を行ってはならない、という内容だ。
具体的には、図表6の通り、銀行の規模と時期によって、資本比率が5.125%~8.5%を切ってしまうと、純利益に対して一定以下の配当(0%~60%)しかできなくなる。
現状は、各行とも資本にはかなり余裕があるので問題はない。ただ、何らかのショックが発生した場合、他の業界に比べて早く配当が停止しやすい仕組みになっていることは把握しておきたい。
なお、こうした資本比率の関係で、逆に今後増配の可能性がある銀行もある。りそなHD(8308)である。同行は、現在優先株式1,750億円を発行しているが、順調に資本が積み上がっていることから、これらを将来的には取得消却すると表明している。その場合、現在支払っている優先配当(合計年間73億円)を普通株式配当に回す方針とのことで、これは概算で普通株1株当たり約3円の増配となる(今期計画1株当たり配当額17円に対し17.6%の増配)。まだいつの時点で優先株が買い入れられるかは不明だが、資本比率の改善とともにその可能性は高まっていく。
チェックポイント④:配当へのコミットメント
2000年代以降、大手行が減配したのは、金融危機の2000年代初頭とリーマンショック後の2009年度~2010年度の2回のみである(無配転落を含む)。減配の契機は、いずれも、大幅な利益の減少や損失の計上で、何らかの形の資本増強も行ったという、かなり特殊な時期だったといえる。前述の通り、過去とは異なり、配当性向を配当の目安としている銀行も増えた。言い換えれば、減益時には減配となるリスクが高くなったという解釈もできるが、各行とも、説明会等の場で、減配回避について強いコミットメントを表明している。
ちなみに、銀行は、過去においても、配当を維持するために様々な手段を講じてきた。例えば、2000年代初頭には、大手行は相次いで統合し持株会社を設立した。これは、金融危機の中で生き残りをかけた再編でもあったが、加えて、銀行よりも、持株会社の方が、配当可能額が大きくなることが考慮された施策でもあった。即ち、経営の安全性が求められる銀行では、一般事業法人よりも大きな資本準備金が求められている(一般企業の準備金=資本x0.25以上、銀行の資本準備金 = 資本x1以上等)。このため、ほぼ同じような財務力であっても、持株会社の方が、銀行本体よりも多くの配当を支払うことができるため、銀行は持株会社を設立することで配当余力を高めたのである。このことからも、銀行の配当維持へのコミットメントの高さが伺える。
まとめ:今期は予定配当維持の可能性大。今後の収益は厳しいが、その他の条件次第で還元拡充も
今期の配当については今回挙げた全行で維持される可能が高いだろう。ただ、来期以降は、マイナス金利導入で銀行収益は厳しさを増す。これに伴い、減配を余儀なくされる銀行と、それでも配当性向を引き上げることで配当を維持できる銀行とに分かれていく可能性もある。今回挙げたポイントから、還元維持・拡充の可能性が高いMUFG(8306)、りそな(8308)、SMFG(8316)、一部地銀などについては、たとえ増益は期待できなくても、安定配当狙いの投資対象として充分検討の余地があるだろう。
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