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◆昨日は、人民元の予想外のタイミングでの1.9%の切り下げを受けて、アジア輸出競合国・対中輸出依存国通貨(シンガポールドル、韓国ウォン、台湾ドルなど)が売られたほか、中国景気減速懸念を強め、コモディティ価格下落を通じてコモディティ通貨(ロシアルーブル、豪ドル、NZドル、チリペソ、ブラジルレアル、南アランド、メキシコペソ)などがつれ安となったのが特徴的だった。
◆円も人民元・他のアジア通貨につれ安となり、発表前の124.60円前後からNY時間にかけて一時125.21円と125円台にしっかり乗せたかたちで、6月5日の年初来高値(125.86円)に接近した。
◆本日は、人民元基準相場が続落するようだと、豪ドルなどへの売り圧力が続きそうだ。また、本日発表の中国主要経済指標の予想比下振れも、コモディティ価格下落を通じて豪ドルなどの下押し圧力となり易い。
◆ドル/円は、人民元安継続の場合、他のアジア通貨つれ安も合わせて、実効ベースでの円高化につながることから、政府・日銀が対ドルでの円安を容認する余地が拡大する。125円程度の「黒田シーリング」の重要性を弱め、125円台定着と更なる上昇の可能性が高まっている。
◆英労働市場統計では加速傾向にある週平均賃金が注目だが、今回は前月と同ペースに留まる予想となっており(振れが大きい賞与を除いた分)、予想を下振れた場合の更なる利上げ期待の後退とポンド安リスクに注意したい。
昨日までの世界:サプライズ元切下げでコモディティ安、アジア通貨安
ドル/円は、中国人民銀が東京時間10:15分頃の日々の基準値公表時に、基準値を史上最大となる1.9%の切り下げを行ったことから、他のアジア通貨(シンガポールドル、韓国ウォン、台湾ドルなど)とつれ安となったほか、本邦政府・日銀も元安、アジア通貨安が円の実効(貿易加重平均)ベースでの円高に繋がってしまうことから、本邦政府・日銀の対ドルでの円安容認余地が拡大することになり、発表前の124.60円前後からNY時間にかけて一時125.21円へ上昇、125円台にしっかり乗せたかたちで、6月5日の年初来高値(125.86円)に接近した。
この間、通貨安誘導まで行わねばならない中国景気の弱さへの懸念が高まり、銅や原油などコモディティ価格が大きく下落し、米中長期債利回りも大幅に低下、米利回り面ではドル安圧力となったが、「競争的切り下げ」の側面の方がより強く出たかたちとなった。
ユーロ/ドルは、アジア時間には元安に端を発したドル高の影響で1.10ドル割れへ軟化する局面もみられたが欧州時間入り後はすぐに反発、一時1.1088ドルと、7月27日の直近高値(1.1129ドル)に近づいた。ギリシャ問題に関して、前日から既にそうした方向となっていたが、第3次支援(3年間で約850億ユーロ)に関して大筋合意に達したことも、緩やかなユーロ下支え材料になった可能性がある。
ユーロ/円もユーロ/ドルと同様に、一時137円割れの局面もあったが欧州時間入り後に反発し、138.37円の高値をつけた。
豪ドル/米ドルは、人民元切り下げの影響を最も大きく受けた通貨の一つで、元切り下げを受けて中国景気減速懸念が強まり、コモディティ価格も下落したことから、0.74ドル台からアジア時間に0.73ドル丁度手前まで下落、NY時間にかけて続落し0.7283ドルの安値をつけ、再び7月31日の年初来安値(0.7235ドル)に接近した。
豪ドル/円も同様に、アジア時間に92円台半ばから91円台前半へ下落、そして小反発した後にNY時間に再度下落し90.96円の安値をつけた。
きょうの高慢な偏見:元切下げで円安容認余地が拡大
ドル/円はまず、東京時間10:15頃の人民元基準値発表が焦点となる。昨日人民銀行は1回限りの措置としたが、今回の基準値算定方式の変更により市場取引実態をより反映したかたちに決定されることになり、元安が続くリスクが残っている。元の基準値の下落が続く場合、他のアジア通貨つれ安も合わせて、対ドルで円安を容認しないと実効(貿易加重平均)ベースでの円高化につがなってしまうことから、政府・日銀が対ドルでの円安を容認する余地が拡大する(円実効相場に占める人民元の比率は30%と最大)。125円程度の「黒田シーリング」の重要性を弱め、125円台定着と更なる上昇の可能性が高まったといえよう。
他方、米国にとっても中国は最大の貿易相手国で、ドル実効相場に占める人民元の比率は21%と最大で、元安と他のアジア通貨安、更に円安はドル実効相場を押し上げることになる。これは今後の米国の利上げ開始を遅らせ利上げペースを鈍化させるリスクを高め、金利面でドル上昇を抑制することになる。このため、対円も含めドル高は急速なものにはならなそうだ。
ユーロ/ドルは、個別の重要材料がなく、人民元切り下げの直接的影響は相対的に小さいと見られることから、引き続き1.08-1.11ドルのレンジ内で強い方向感はない。但し、元安継続の場合にはコモディティ通貨や新興国通貨の動揺の中で、ギリシャ危機の目先の後退もあって、流動性が高いユーロが避難通貨として捉えられる可能性も出ており、下がりにくくなったかもしれない。
豪ドル/米ドルも米ドル/円と同様、更なる人民元基準値の下落がないか、それを受けたコモディティ価格の動向が焦点となる。元続落の場合には豪ドルへの売り圧力が続き、直近安値トライ(0.7235ドル)の可能性が高まっている。
また、本日は中国主要経済指標(小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資)も発表予定で、市場予想を下振れ前月からの減速傾向が鮮明になると、コモディティ価格下落や元追加切り下げ期待を通じて豪ドルなどに下押し圧力となり易い。
豪ドルは、中国の影響を受けやすい国・通貨の中でも流動性が高く、人民元の「代理通貨」として取引され易い面があるほか、今回の元切り下げが足許の中国景気の悪さを反映している場合の対中コモディティ輸出減少・コモディティ価格下落リスクなどが意識され、売られ易い。なお、元安を通じた中国景気の回復には時間がかかるほか、他国を犠牲にした自国景気回復にしか資せず世界経済のパイを拡大するものでもない。むしろ、他国通貨も下落することから(通貨切下げ競争)、想定通りの輸出押し上げ効果が望み難い、と言う面もある。
ポンドは、本日発表の英労働市場統計(週平均賃金、失業率など)で加速傾向にある週平均賃金が最も注目だが、今回は前月と同ペースに留まる予想となっており(前年比+2.8%、振れが大きい賞与を除いた分)、予想を下振れた場合の更なる利上げ期待の後退とポンド安リスクに注意したい。
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