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◆先週金曜は、Fischer・FRB副議長のタカ派的な発言を受けてドルが対円、対ユーロで上昇したのが特徴的だった。ドル/円は一時121.75円まで上昇、ユーロ/ドルは1.12ドルを割り込み一時1.1156ドルの安値をつけた。
◆この間、中国株価や原油価格が大幅続伸したが、米ドル高の影響もあってカナダドルや豪ドルなどのコモディティ通貨の上昇は限定的となった。
◆本日は、明日以降の米重要経済指標発表前で相対的に注目度は低いが、ユーロ圏8月HICP速報値や米シカゴPMIが発表予定となっている。中ではユーロ圏HICPが注目で、市場予想の前年比+0.1%への低下を更に下回ると、デフレ再発懸念とECB追加緩和期待が高まり、ユーロ/ドルが続落しそうだ。
◆ドル/円は、中国株価の持ち直し継続が下支えとなる一方、米利上げ期待についてはやや行き過ぎで調整が入り易いとみられることから、121円台でのもみ合い推移となりそうだ。
昨日までの世界:副議長は本当にタカ派か?
ドル/円は、欧州時間までは121円丁度を挟んだ小動きに終始していたが、Fischer・FRB副議長のジャクソンホール・シンポジウム前のインタビュー内容がタカ派的と受け止められ、ドル/円は一時121.75円まで上昇した。Fischer副議長は、人民元安の影響を見極める必要がある、今すぐに動く必要はない、市場ボラティリティが利上げ開始時期に影響する、利上げの段階に達したかまだ確かではない、などと慎重な発言もしているが、米経済はかなり良好に進行している、インフレ率上昇への確信はかなり高い、などと述べた部分がタカ派的で9月利上げの可能性を残すものと解釈されたようだ。他方、その前に発表された、Fedが最も重視しているインフレ指標である米コアPCEデフレータは前年比+1.2%と、前月および市場予想を下回るなど低迷が続いており、インフレ指標は利上げを急ぐ必要がないことを示唆している。
ユーロ/ドルは、欧州時間入りにかけて一時1.13ドル台を回復する局面もあったが、Fischer・FRB副議長発言を受けたドル高により、1.12ドルを割り込み一時1.1156ドルの安値をつけた。この間、ドイツ分8月HICP(総合インフレ率)が発表されたが、前年比+0.1%と前月および市場予想と同じ伸びにとどまったことから、今週のECB政策理事会に向けた追加緩和期待はまだ高まっていないようだ。
ユーロ/円は、概ね横ばい圏内の動きだがどちらかというとドル/円よりもユーロ/ドルの動きに類似した展開となり、欧州時間にかけて一時136円台半ばへ強含みとなった後、Fischer副議長発言後に135.31円へ下落し前日の直近安値(135.26円)に迫った。
豪ドル/米ドルは、アジア時間は前日からの堅調地合いを引きつぎ一時0.72ドル台へ小幅続伸する局面もみられたが、欧米時間にかけて0.7121ドルへ反落した。但し、Fischer副議長発言後の米ドル高には余り反応せず、むしろその後の原油などコモディティ価格の大幅上昇に下支えられたかたちだが、とは言え大幅反発にも至らず、結局0.71ドル台半ばと前日の引けの水準に戻った。
豪ドル/円は、V字型の動きとなり、アジア時間に87円台乗せとなった後、NY時間にかけて86.04円へ反落したが、引けにかけては再び87円台を回復した。
きょうの高慢な偏見:市場と中銀の作用・反作用
ドル/円は、中国株価の持ち直し継続が下支えとなる一方、米利上げ期待についてはやや行き過ぎで調整が入り易いとみられることから、121円台でのもみ合い推移となりそうだ。Fischer副議長は週末のジャクソンホール・シンポジウムで、米景気回復やインフレ率の中期的な2%への回帰に自信を示しつつも、中国景気減速への懸念やドル高への景気抑制効果にも言及しており、9月利上げ開始に確信を持てていない様子が窺える。雇用統計など米経済指標が多少上振れしても、中国景気減速の悪影響の広がりや中国をはじめとする世界株価の不安定は続いていることから、利上げを急ぐ必要はなく、12月が妥当とみられるが、9月16-17日開催のFOMCに向けてはFed高官発言や経済指標に一喜一憂し、上下に振れやすい展開が続きそうだ。
ユーロ/ドルでは、ユーロ圏HICPが注目で、市場予想の前年比+0.1%への低下を更に下回ると、デフレ再発懸念と9月3日のECB政策理事会に向けてECB追加緩和期待が高まり易く、続落しそうだ。
豪ドル/米ドルは、原油や銅などコモディティ価格の回復が続くようであれば底堅い展開となりそうだが、景気下支えのために豪ドル安が必要と考えているRBAは9月1日の理事会などで豪ドル高牽制を若干強めるとみられ、豪ドル高余地は限定的となりそうだ。
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