米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

利上げ見送りもタカ派的だったFOMC

■FOMCの声明文の主な変更点

日本時間29日の午前3時に10月の連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文が発表された。詳細は後述するが「次回(12月)の会合で金利引き上げが適切かどうかを決定する上で」という踏み込んだ表現が追加されるなど、全体としてはタカ派的な内容だった。ただ、前回レポートで記したように、FRB高官は弱かった9月分の雇用統計後も「12月利上げがメインシナリオである」主旨の発言を行っており、内容としては驚くに当たらない。ただ、それが声明文にまで盛り込まれたということが若干のサプライズだったと言えるだろう。

9月の声明文から10月の声明文の主な変更点は以下の通りである。
・家計支出と設備投資の状況の認識を上方修正
・労働市場の認識を下方修正
・前回会合で追加された「最近の世界経済や金融動向が短期的にインフレ率に低下圧力となる可能性がある」という表現が削除
・海外動向を注視→世界経済と金融動向を注視、に変更
・「次回の会合で金利引き上げが適切かどうかを決定する上で」という文言を追加

個人消費や企業の設備投資については、適度に増加(increasing moderately)から この数ヶ月間は堅調に増加(at solid rates in recent months)という表現に上方修正された。一方で、労働市場の認識は、雇用の増加ペースは鈍化した(The pace of job gains slowed)との表現に下方修正された。これは9月分の低調な雇用統計の結果を受けての認識変更であろう。

さらに大きな変更点が、前回会合で追加された、「最近の世界経済や金融動向が短期的にインフレ率に低下圧力となる可能性がある(Recent global economic and financial developments may restrain economic activity somewhat and are likely to put further downward pressure on inflation in the near term.)」という表現が削除されたことである。9月のFOMC前はVIX指数が一時40を上回るなど、市場が混乱していた時期だった。世界経済や中国経済の鈍化に対する不安が後退し市場が落ち着きを見せたことで、FOMCメンバーの懸念も後退したということだろう。その代わりにこれまで海外動向を注視(monitoring developments abroad)と表現されてきた部分が、世界経済と金融動向を注視(monitoring global economic and financial developments)とやや詳細な表現に変更された。

そしておそらく、最も驚きを持ってむかえられた点が、次回の会合で金利引き上げが適切かどうかを決定する上で(In determining whether it will be appropriate to raise the target range at its next meeting)という表現が加えられたことであろう。FRB高官はあくまで12月利上げがメインシナリオであることを示唆してきたが、市場が「12月利上げはない」と楽観的な判断に傾きつつあることに釘を差したのかもしれない。

■金利上昇・ドル高・株高

タカ派的だった声明文を受け、マーケットは金利上昇・ドル高・株高の反応を見せた(グラフ参照)。タカ派的な声明を受けての金利上昇・ドル高は素直な反応と言えそうだが、株高は意外な結果だった。ダウ平均は声明発表直後に大きく売られ、一時はマイナスに転じたがその後切り返してほぼ高値引けとなった。株式市場の本格的な反応、今後のトレンドは今夜以降の動向をみなければなんとも言えないが、声明文で世界経済に対する懸念が削除されたことが好感されてリスクオンに傾いたのかもしれない。

■12月利上げは経済指標次第に

FRBは「次回会合での利上げ検討」という文言を入れて12月のFOMCで利上げを行う可能性を明確に残した一方で、労働市場の見通しを下方修正と、経済指標次第でどちらにも決定できるようにした。今後FRBは10月分・11月分の雇用統計を最重要判断材料としながら、世界経済情勢にも気を配り、極端に弱さがある指標が続かなければ12月利上げ、弱い指標が続けば利上げは来年にという経済指標次第の判断をくだすことになるだろう。そして、29日に早速7-9月期のGDP速報値が発表される。市場では前期比年率1.6%成長と予想されているが、アトランタ連銀が発表している「GDP NOW」の最新予測では1.1%成長と、市場予想を下回っている。市場予想を下回る弱いものとなれば、また12月利上げと利上げ延期期待と綱引きになる可能性がある。まだしばらくは経済指標に一喜一憂するマーケットが続きそうだ。

フィナンシャル・インテリジェンス部 益嶋 裕

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