米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

実はまずまず堅調な雇用統計-年内利上げに向けたハードルをクリア-

非農業部門雇用者数(前月差) 9月 +15.6万人 市場予想 +17.2万人  前月 +16.7万人 
失業率 9月 5.0% 市場予想 4.9%  前月 4.9%
労働参加率 9月 62.9%  前月 62.8%
平均時給 (前年比) 9月 +2.6% 市場予想 +2.6%  前月 +2.4%

ヘッドラインは市場予想下回るも中身はまずまず堅調な雇用統計

7日に発表された雇用統計は全体的にまずまず堅調な内容だった。9月分の非農業部門雇用者数は前月から15.6万人の増加と市場予想の17.2万増を下回ったものの、懸念されるような弱い水準ではなかった。なお、8月分は15.1万人増→16.7万人増に上方修正、7月分は27.5万人増→25.2万人増に下方修正され、差し引きは前月から0.9万人の下方修正だった(グラフ参照)。20万人増を超える増加が続いていた時期からすれば雇用者数の伸びは鈍いように見えるが、後ほど紹介するように一部のFRB高官は米労働市場が「完全雇用」に近いと判断しているように、米労働市場の緩みがほとんどなくなってきているとみられるなかでの15万人を超える労働者数の伸びというのは必要十分だと考えられそうだ。

また、失業率は前月の4.9%から5.0%に悪化したが、これは労働参加率の上昇(62.8%→62.9%)に伴うもので、これまで職探しを諦めていたために失業者にカウントされていなかった人々が職探しを再開したために失業者が増加したものと考えられる。労働者の伸びはしっかりと続いていることからみても、ネガティブな失業率上昇ではないと考えてよいだろう(グラフ参照)。

また、平均時給は前年比2.6%の伸びと市場予想と一致して前月から伸びが拡大した。平均時給は8月に前年比2.4%増とやや伸びが鈍化したが、9月分ですぐに伸びが回復したことで8月の落ち込みは一過性だったと判断でき、この点もポジティブに解釈できそうだ(グラフ参照)。

また、最近はあまり注目されることがなくなってきたが、イエレンFRB議長が重視する労働市場関連指標の総称である「イエレンダッシュボード」の1つに入っていた指標に好ましい変化があった。その指標とは「失業者に占める27週以上の長期失業者の割合」である。同指標はリーマン・ショック後に一時45%超まで上昇(悪化)した。それが9月分は24.9%と前月の26.1%から改善し、同指標が改善に転じてからの最低を記録した。これも労働市場の引き締まりを示す好材料と言えるだろう(グラフ参照)。

このように、非農業部門雇用者数や失業率といった注目度の高い指標こそ市場予想ほど良くなく、冴えない内容であるとの印象を与える雇用統計だが、その他の指標を細かく見ていくと決して悪い内容ではない。むしろ筆者はFRBが年内利上げに向け一歩進んだ印象を持っている。それを裏付けるように、雇用統計の結果後にFRB高官たちは早期利上げを志向する発言を行った。

雇用統計を受けてのFRB高官たちの発言

まず、FRB内での影響力が高いとみられるフィッシャーFRB副議長は7日に「失業率は自然失業率にかなり近い」として、米労働市場が完全雇用に近いとの見方を示した。また、ジョージカンザス連銀総裁、メスタークリーブランド連銀総裁も雇用統計の結果を受け相次いで米労働市場の堅調さを背景に早期利上げに踏み切るべきだとの従来からの主張を繰り返した。両連銀総裁は9月のFOMCで利上げするべきだとして現状維持に反対票を投じており、利上げするべきだとの主張は驚くには当たらないが雇用統計の結果からさらにその主張を強めているように見える。つまり、今回の雇用統計の結果が彼らの主張を揺るがせるような弱いものではなかったということは判断できる。

前回のレポートで記したように、9月のFOMCで利上げが見送られたのはISM景況指数などの経済指標が下振れたこと、また8月分の雇用統計がやや弱めの内容だったことが大きな理由だと考えられる。こうしたなかISM景況指数は9月分で大きく改善し、雇用統計もまずまず堅調だったことからすると年内利上げを見送る理由はなくなってきたと判断するのが妥当だろう。大統領選への影響を考慮して11月のFOMCでは利上げが見送られ(ただし念のため要警戒)、12月のFOMCで利上げ実施となるのではないかと考えている。

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