米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

雇用統計直前レポート~米国市場の変化の兆しとは~

都合により「米国マーケットの最前線」は1月6日の更新をもちましてしばらく休載とさせていただきます。

ADP雇用統計やや下振れも米労働市場は堅調

本日(6日)日本時間22時半に12月分の米雇用統計が発表される。連邦公開市場委員会(FOMC)は12月に1年ぶりの利上げを決定、2017年には3回の利上げを想定していることが示唆された。ただしイエレンFRB議長は利上げのペースは経済動向次第であるとの従前からのスタンスを崩しておらず、今年の利上げ回数は当然2回以下になることもありうるし、4回以上になることも否定できない。フィッシャーFRB副議長は2016年年初に「今年は四半期に1度(年4回)の利上げを行う」という趣旨の発言を行っていたが、結果的に昨年の利上げは1回のみだった。

引き続き利上げ実施判断の重要な材料の1つが雇用統計になるわけで、今年も大きな注目を集める。マーケットの注目は労働市場そのものよりもインフレ率に移りつつある。11月の失業率は4.6%だったが、FOMC後に示されたメンバーの予測によれば2017年~2019年の年末の失業率はいずれも4.5%となっている。つまり、失業率はこれ以上ほとんど下がる余地がなく米労働市場は完全雇用に近いとFOMCメンバーは考えているということだ。今後は雇用者数や失業率などの指標よりも特に将来のインフレ圧力となる平均時給の上昇率への注目が高まるとみられる。

12月分の雇用統計はまずまず堅調な内容になると予想されている。市場予想では非農業部門雇用者数が前月差17.5万人増と前月の伸びとほぼ横ばい、平均時給は前年比2.8%と前月から加速すると見込まれている。雇用統計の先行指標であるADP雇用統計は、民間部門の雇用者数が前月から15.3万人増と市場予想(17.5万人増)をやや下回って前月から伸びが鈍化した。ただ、大きく問題のあるような鈍化幅ではないし、後述するようにその他の労働市場の労働市場の先行指標は堅調さを維持している。

5日に発表された労働市場の先行指標である新規失業保険申請件数は、23.5万件と金融危機後で2番目に少ない申請件数(望ましい)を記録した。4週移動平均でも減少傾向を継続している。以上から米労働市場の改善トレンドは変わっていないと判断し、12月分の非農業部門雇用者数はADP雇用統計と整合的な15-16万人程度の増加になるのではないかと考えている。

好調な経済指標目立つ

今年になって発表された経済指標は好調な内容が目立っている。まず4日に発表されたISM製造業景況指数は、54.7と市場予想を上回って前月から改善した(グラフ参照)。改善は4ヶ月連続である。指数の内訳を見てみると、ヘッドラインを構成する5項のうち新規受注(53→60.2)、生産(56→60.3)、雇用(52.3→53.1)の3項目が前月から改善、在庫(49→47)と入荷遅延(55.7→52.9)はやや悪化した。

特に目を引くのが新規受注の大幅改善である。以下のグラフに示したようにISM製造業指数の新規受注と米国株の相関は高いことが知られている。同指数の大幅改善は米国株にとってポジティブに捉えることができるだろう。

また、5日に発表されたISM非製造業指数も堅調だった。ヘッドラインは57.2で前月から横ばいだが、前月は2015年10月以来約1年ぶりの高水準だった。非製造業の景況感も好調をキープしているようだ。

同じく5日に発表された新車販売台数も好調だった。12月の新車販売台数は年換算1843万台と、2005年7月以来約11年半ぶりの高水準となった。2016年の年間販売台数は1755万台で過去最高を更新した。新車販売台数は昨年8月以降4ヶ月連続で販売台数が前年割れと冴えなかった。だが12月は前年同月比5.2%増と5ヶ月ぶりのプラスとなった(グラフ参照)。

このように米国の経済指標は概ね堅調に推移している。トランプ氏が大統領選に勝利したことで、大統領就任後の景気拡大期待が個人や企業のセンチメントに好影響を与えているような印象だ。

少し注意をはらいたい米国の長期金利低下

上述してきたように、米国経済は堅調である。ただ、大統領選以降米国経済の拡大を織り込むように上昇してきた米国の長期金利や米国株式市場にやや気になる変化が出ているのでご紹介したい。

ご承知のように大統領選後に米国の長期金利は大きく上昇し、大統領選前に1.8%程度だった長期金利は一時2.6%程度まで上昇した。ただ、グラフに示したように12月中旬をピークとしてその後は低下基調にあり、1月5日には前日から0.1%近く低下して2.34%となった。これは大統領選後の1日の最大の下落幅である。

米国株式市場も金利低下に敏感に反応した。大統領選前の11月8日以降S&P500は約6%上昇した。その牽引役は言わずもがな金融で、以下の表の通りセクター別の上昇率トップとなっている。ところが、昨日5日の取引では金融が1%を超える下落で下落率トップとなった。昨日はその他の業種を見ても、大統領選以降上昇率が高かったセクターが軟調で、反対に大統領選以降冴えないパフォーマンスのセクターが堅調だった。

金利低下や業種別動向の変化をもって米国景気の鈍化や株価が大幅に調整すると考えているわけではないが、トランプ氏への期待先行で大幅に上昇してきただけに、市場がスピード調整局面に入る可能性を考慮しておいた方が良いかもしれない。

前回のレポートでは時価総額の大きいハイテク株の出遅れについて、以下のように記した。

"ハイテクセクターの株価低迷の要因としてあげられるのが、金利上昇だろう。金利が上昇する局面では相対的に株式の価値が低下し、株価は下落圧力を受けやすい。その際に真っ先にそうした圧力を受けやすいのが元々バリュエーションが高い銘柄だ。アルファベット、アマゾン、フェイスブックの3社は元々成長期待が高いため特にPERが高い。米国の長期金利が大幅に上昇する中で、バリュエーションの高さが敬遠されて足元は売り圧力が強かったということだろう。"

5日にダウ平均やS&P500が下落する中で、上記で記したハイテク3社は受け揃って上昇した。アマゾン・ドット・コム(AMZN)は3.1%高、フェイスブック(FB)は1.7%高、アルファベット(GOOG)は0.9%高である。

これまで述べてきたように、足元の米国市場にはやや傾向の変化がみられる。米国株の調整にやや注意を払うとともに、もし調整がきた際には出遅れているハイテク株の押し目を拾うという投資戦略が検討に値するかもしれない。

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