マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー 益嶋 裕が様々な角度から焦点をあてて日本企業を紹介していきます。
会社四季報活用術その2 長期的な業績のトレンドをチェックする
株価と利益は連動する
前回の銘柄フォーカスでは、会社四季報の「連結事業」を投資に活用する方法をご紹介しました。今回は四季報の本丸?ともいうべき、企業業績の活用方法についてご紹介します。
本題に入る前に、企業業績と株価の関係についておさらいしてみましょう。端的に言えば、企業の利益と株価は中長期的に連動します。そのことをいくつかの事例でみてみましょう。まず、以下のグラフに示したのは2013年以降の日経平均と1株当たり利益の推移です。日経平均がアベノミクス後に大きく上昇したのはご承知のとおりですが、その影で実は企業の利益が着実に伸びていることがわかります。ただ、四角で囲んだ2015年の後半からは中国経済の鈍化や原油安、内需の低迷などから企業業績が伸び悩み、1株当たり利益が下方修正されています。1株当たり利益が右肩下がりになるに連れて株価も下落しています。この数年間の日本株の上昇は企業の利益が増えたことに伴うもので、足元の調整は企業の利益が伸び悩んでいるからだと整理できます。
日経平均という多数の企業の平均を見たところで、今度は個別企業の事例を見てみましょう。グラフに示したのは、ローソン(2651)・ファミリーマート(8028)・ポプラ(7601)というコンビニエンスストア事業を展開する3社の過去10期の営業利益と10年間の株価の推移です。なお、セブン&アイ・ホールディングス(3382)はコンビニ事業以外にスーパー・百貨店・金融など様々な事業を行っているため比較の対象から外しています。3社の営業利益を見ると、ローソン・ファミリーマートの2社が利益を伸ばしているのに対し、ポプラは直近で営業赤字となるなど厳しい業績となっています。
今度は3社の株価を見てみましょう。比較しやすいように10年前の株価を100として指数化すると、ローソンとファミリーマートの株価が10年前から大きく上昇しているのに対し、ポプラの株価は10年前から半値以下になっています。
このように、企業業績と株価は中長期的に見れば非常に連動性が高いといえます。では、将来株価が上昇する可能性が高い銘柄とはどのような銘柄でしょうか?それは、将来今よりもっと利益を稼ぐ(と市場が思う)銘柄です。あの伝説の投資家ウォーレン・バフェットは、株主に宛てた手紙の中で以下のように記しています。
投資家の目的は、簡単に理解できる事業を行っていて、5年・10年・20年後に今よりもっと利益を稼いでいる企業の株式を適切な価格で買うことである。
(出所)1996年「株主への手紙」より筆者が和訳
将来の業績を予想するためのヒントになるのが過去業績
将来の業績を予想するうえで1つのヒントになるのが過去の業績です。もちろん過去はあくまでも過去で、必ずしも過去の業績が将来の業績に直結するわけではありません。それでも、継続的に業績を伸ばし続けている企業は競合他社がマネできない商品やサービスの優位性を持っていたり、会社としての戦略が優れていたりする可能性があります。それらを探すヒントにするために、ぜひ会社四季報の業績欄をチェックしてみてください。
では具体的に見てみましょう。下記の図は本日時点で最新の会社四季報から、「無印良品」を展開している良品計画(7453)の業績欄を抜粋したものです。まず、赤い線で囲ったのは2013年2月期から2015年2月期まで3期分の業績の実績です。売上高や各利益ともしっかりと成長し、あわせて配当も大幅に増加していることがわかります。
続いてその下の青い線で囲った欄は2016年2月期と2017年2月期の東洋経済新報社による業績予想です。この予想によれば今後も売上・利益・配当とも伸びていくと予想されています。最後に一番下の緑の線で囲ったのは、企業自身による業績予想です。良品計画の場合は企業の業績予想と東洋経済新報社の業績予想が一致しています。銘柄によっては企業自身の予想と東洋経済新報社の予想に大きな差がある場合もありますので、その点もぜひチェックしてみください。なお、良品計画の株価は以下のとおり大きく上昇しています。
有価証券報告書を活用してより長期の業績を取得する
上記でご紹介したように会社四季報で過去の企業業績を取得することができますが、3期分とやや期間が短いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そこで会社四季報以外に、より長期の企業業績を取得する方法をご紹介します。その方法とは「有価証券報告書」を活用することです。
有価証券報告書とは金融商品取引法に基づいて上場会社が事業年度ごとに作成することが義務付けられている書面で、その冒頭に「主要経営指標の推移」が出てきます。下記は良品計画の「有価証券報告書-第36期(平成26年3月1日-平成27年2月28日)」から「主要経営指標の推移」を抜粋したものです。
「営業収益(売上高に相当)」や各利益だけでなく、「1株当たり純資産(BPS)」や「自己資本比率」、「自己資本利益率(ROE)」、「株価収益率(PER)」「営業キャッシュフロー」など様々な指標を過去5期分遡って取得することができます。以下でご紹介する方法では5期前までの有価証券報告書を閲覧することができるので、最大10期分(5期前の有価証券報告書を見てそこから5期遡れる)の過去業績を確認できます。
<有価証券報告書の閲覧方法>
(1)グーグルやヤフー等の検索サービスで「EDINET」※1と検索
(2)EDINETにアクセスし「書類検索」というメニューをクリック
(3)画面の中の「提出者/発行者/ファンド」の欄に「銘柄名」または「銘柄コード」を入力
(4)「決算期/提出期間を指定する」の欄の提出期間を「全期間」に設定
(5)「検索」ボタンをクリック
(画面遷移イメージをレポートの最後に記載しています。)
※1 EDINETとは金融庁が所管する電子情報開示システムです。
なお、有価証券報告書は「四半期報告書」と通期の報告書に分かれていますが、長期の業績を取得したい場合は通期の報告書(有価証券報告書というタイトル)の書類を選択してください。ぜひ会社四季報や有価証券報告書を活用して、企業の長期的な業績等を投資に活用していただければと存じます。
また、本レポートで記載した内容はこちらのセミナーでもお伝えしておりますので、ぜひそちらもご参照ください。
(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。