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山本 雅文「FX投資戦略テーマ」

シニア・ストラテジスト 山本 雅文が世界の外国為替市場における旬なトピックや注目通貨を取り上げ、幅広い視野から最適な投資戦略を提案します。
(原則、水曜日または木曜日に更新)

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シニア・ストラテジスト 山本 雅文のレポートは2015年10月30日をもって更新は終了しました。これまでご愛読いただきありがとうございました。

2015年10月19日

ドル:政府シャットダウンで鷹派シャットアップ?

<要約>
米国では連邦債務上限引上げの実質的期限が11月3日前後に、今年度暫定予算の期限も12月11日に到来し、それまでに議会が債務上限引上げや本予算を可決しなければ2013年と同様に政府機関が閉鎖されるリスクがある。仮に閉鎖の事態となっても前回の記憶が新しいためサプライズではなく、短期間に留まり、米国経済や金融市場への直接的影響は軽微に留まりそうだ。とは言え、これらの問題が解決されるまでは、米FOMCの利上げ決定だけでなく、日銀の追加緩和も手控えられる可能性が高く、ドル/円相場の一時的な下振れリスクとなっている。

米連邦債務上限引上げ問題に加えて・・・
米国では連邦政府の借り入れに上限が策定されており、上限到達のたびに上限を引き上げてきたが、ルー米財務長官発言(10月15日)によると、今年11月3日には政府資金が約300億ドルへ減少する見込みで、現行の債務上限(18兆ドル)を引き上げない限り支払い不能に陥ることになる。従来は11月5日頃とされてきたが、2日間繰り上げられたかたちとなり、11月3日が債務上限引き上げに関する手続きの事実上の期限となる。議会予算局(CBO)も11月前半に資金が枯渇するとの見通しを別途公表している。

もっとも、上下両院で過半数議席を握る共和党は、保守派議員らを中心に何らかの歳出削減策なしでは債務上限を引き上げない姿勢を維持しており、解決の目処は立っていない。更に、議会でのまとめ役であるベイナー下院議長が10月末の議員および議長職辞任の意向を表明、後任の本命とされていたマッカーシー下院院内総務も議長職就任を辞退した。11月3日までに決着をつけるには、まずは下院議長人事を巡る共和党内の混乱収束が重要となる。現時点で最有力候補とされているのがポール・ライアン議員だが、本人は当初から前向きではなかったこともあり、不透明感が高い。

・・・今年度予算案も可決する必要がある
仮に11月初までに債務上限引き上げに成功したとしても、12月11日には今年度(2015年10月~2016年9月)の暫定予算の期限が到来する。本来、9月末までに本予算を可決しておくべきだったが、こちらも議会で多数派を握る共和党内およびオバマ大統領(民主党)との調整がつかず、12月11日を期限とする暫定予算が9月30日に承認された。再度時限措置としての暫定予算を組むことも可能だが、オバマ大統領は否定的な見解を示しており、本予算の議会通過が必要となる。ここで失敗すれば、2013年10月1日~16日のように一部政府機関の閉鎖が繰り返されることになる。また、債務上限引上げが暫定予算の期限まで適用が停止され、債務上限問題と本予算が同時に議論される場合には、更に決着が難しくなる可能性も指摘されている。

前回閉鎖時の教訓:悪材料を事前に織り込み、再開後に反発
前回、2013年10月1日~16日の一部政府機関の閉鎖時には、95年以来の出来事で米経済や金融市場への影響度合い、そしてバーナンキ議長(当時)率いるFOMCが予定していたテーパリング(資産購入縮小)への影響などが不透明だったことから、9月末の期限が近づくにつれドルと米株価が下落、債券市場は格下げリスクが意識されたもののむしろリスク回避的な債券への資金逃避もあり、利回りが低下した(図表1、2)。政府機関再開後も、閉鎖により発表が10月22日に延期された雇用統計(非農業部門強者数)が市場予想を下回ったためドル安が継続したが、その後は米利回りと共にドルも対円を中心に反発に向かった。年内開始が予想されていた米FOMCのテーパリング開始は翌年1月へ事実上延期されたかたちとなった。

為替への影響:ドル/円下押しリスク、但し下値も限定的に
今回は今年度本予算案可決の期限だった9月末に向けては特に市場の緊張は高まらなかったが、債務上限問題の実質的期限が来る11月3日前後、そしてこれがクリアされた場合でも暫定予算の期限が到来する12月11日に向けては、株安や米景気への悪影響を懸念したリスク回避的な動きからドルが下落、米利回りにも低下圧力がかかりそうだ。議会混乱を示唆する報道が流れると、ドルや米利回りへの下押し圧力は大きくなるだろう。特に、多くのFOMCメンバーが年内利上げ開始姿勢を示してきた中で、12月15-16日に今年最後のFOMC開催を控えていることもあり、債務上限・予算案を巡る混乱が米年内利上げ開始期待を更に後退させることも、ドルと米利回りの下押し圧力となる。

更に、この問題は日銀を始め他国の政策にも影響を及ぼす可能性がある。市場では日銀が10月30日の決定会合で追加緩和を決定するとの期待も根強いが、米政府機関閉鎖の可能性というリスクイベントが11-12月に予想されている中で、イベント前に急いで追加緩和をするメリットは非常に小さく、むしろ閉鎖が想定外の悪影響を及ぼした場合の対応余地を狭め、デメリットの方が大きくなる。このように、この問題は米利上げ開始だけでなく、日銀追加緩和の予想時期の後ずれにも繋がることから、短期的にドル/円に下押し圧力がかかりやすくなる(日銀の追加緩和については投資戦略テーマ「ドル/円:追加緩和はまぼろし?」を参照)。

とは言え、仮に政府機関閉鎖という事態となっても前回程度(16日間)に留まり長期閉鎖は避けられる可能性も高い。前回閉鎖後の世論調査では共和党に責任があるとの回答が過半数となるなど、来年に大統領選を控え共和党としても強硬姿勢を貫くメリットは明確ではない。こうした点を踏まえると、11月3日あるいは12月11日に向けてドルが下がる場面は、ドル押し目買いの好機となりそうだ。ドル/円の押し目は118円を一時的に割り込む程度に留まるかもしれない。

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