ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

2カ月かかった

この前の土曜日に、マネックス全国投資セミナーを三重県の四日市で開催した。四日市を訪れるのは初めてであった。セミナーはおかげさまで大盛況。セミナーの最後は、社長の松本はじめ、チーフ・ストラテジストの僕や、シニア・ストラテジストの山本、そしてゲスト・スピーカーによるパネル・ディスカッション「ライブ!駆け込み寺」である。マネックス全国投資セミナーの人気企画で、会場の参加者から寄せられる様々な質問にパネリストがその場で回答していくものだ。毎回寄せられる定番の質問については予め回答を用意して会場のスクリーンに投影する。今後の日経平均や為替相場のレンジ、有望な投資対象国、などである。そのなかのひとつに、「注目のセクターは?」という質問があって、僕は「電子部品」と答えた。四日市のみなさんにだけ教えるのは不公平だからこうしてレポートであらためて推奨するものである。

※マネックス全国投資セミナーin 四日市


実は、1か月前のレポート「引き続き弱気心理が支配する市場 いつになったら現実に目を向けるのか」ですでにこう述べている。

<スマホ関連も実はそんなに悪くない。「先読みビジネス天気」で電子部品を取り上げた昨日の日本経済新聞はこう伝えている。

「中国のスマートフォン市場が大きく変調したという感覚はない」。高水準の受注が続く村田製作所の藤田能孝副社長は計画通りに生産、販売が進んでいると強調する。8月からは米アップルの新型スマホ「iPhone6s/6sプラス」向け部品の量産が本格化している。「10~12月期のスマホ向け受注は引き続き堅調に推移する見通し」(TDKの上釜健宏社長)との見方が多い。

確かに中国のスマホ市場は飽和状態にあり伸びは鈍化する。しかし、それはスマホ関連がすべてだめになるということではない。スマホ市場のなかでも選別が進むということだ。これは中国経済/ビジネスの全般について言えることだが、だめな業種/好調な業種がはっきりするとともに、その業界のなかでも優勝劣敗がはっきりしてくるということである。>

こうした観測は昨日の日経新聞が報じた「電子部品受注、最高の1.4兆円 大手6社の7~9月 中国減速でも好調」という記事で決定的となったと言えるだろう。記事は、「中国の景気減速など市場環境は不透明だが、各社はスマホの高機能化や車の電子化で市場は底堅く推移するとみており、積極投資で需要を取り込む」と伝えている。

昨日、決算発表の記者会見で日本電産の永守重信会長兼社長はスマホ向けの振動部品の増産に今後数年間で1000億円超を投じる方針を明らかにした。今後、高機能スマホを中心に長期的な市場の拡大が期待できると判断したからだ。

村田製作所をはじめ電子部品株はずっと安値圏での低迷が続いてきた。村田が「積層セラミックコンデンサー(MLCC)」の増産へ新工場棟を建設すると発表しても市場は反応しなかった。「中国景気減速」のひとことで、すべて切って捨てられてきたと言えるだろう。ようやくこの過小評価も修正される兆しが出てきた。電子部品セクターは出遅れ感が強く、その割に業績に対する確信度が高い。このギャップに着目した投資は良好な成果を生むと考える。

昨日の日経新聞電子版「スクランブル・フラッシュ」は、<中国不安は行きすぎだったかもしれない ――。安川電機の業績などを受けて、21日はこんな見方が市場に広がった>と書いている。

2カ月かかった。僕が中国・上海滞在中に、「中国景気減速に対する過剰反応」という緊急レポートを配信したのが、8月21日だった。そこからちょうど2カ月たって、ようやく「中国不安は行きすぎだったかもしれない」という声が聞かれ始めた。何が転機となったのか?何もない。ただ単純に株価が上がったからだ。

僕は、10月9日のレポート「ようやく底打ち確認 市場の誤謬性について」でこう述べた。

<過度な不安が後退し、リスクオンの兆しが復活した。つまり、かねてから主張している通り、相場の値動き自体が投資家センチメントに影響を与えている。ジョージ・ソロスの「再帰性理論」だ。投資家センチメントが改善したから、米国株が底を打ったのではない。米国株が底を打った(ように見える)から、投資家センチメントが改善したのである。>

誰もが昨日の日経平均の大幅高には首をひねった。「意外高」という言葉がメディアに流れた。しかし、そもそも株はさしたる理由がなくても、上がったり下がったりするものだ。そしてその株価の動き自体が相場のセンチメントを形成する。この夏以来、ずっと続いてきた「中国景気不安による世界株安」というドタバタ劇は、株価の乱高下に振り回された市場関係者の独り芝居に過ぎない。その茶番劇にもようやく幕が引かれようとしている。日本株も、米国株に遅れてようやく底値固めが鮮明となってきた。米国株はダブルボトム、日経平均はヘッド・アンド・ショルダーズ・ボトム(逆三尊)の格好だ。


      ※セミナーの後に訪れた伊勢神宮にて

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