ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

裏の裏は表

Buy On Rumor, Sell On Fact (噂で買って、事実で売る)というのは、僕の好きな相場格言のひとつ。一筋縄ではいかない市場の振る舞いを表した言葉だ。相場というものは、そんなに単純なものじゃない。「ひとの行く 裏に道あり 花の山」と同じニュアンスだが、逆張りとか、コンセンサスの裏に賭けないと儲からないということである。

直近の相場急落の原因について、さまざまな解説が各種メディアにあふれている。原油価格の一段安、人民元が再び下げ足を速めたこと、投資不適格債に投資していたファンドが解約を停止、清算に追い込まれたこと、などなど。今日の日経新聞市況欄のコラム「大機小機」のタイトルは、<パリバ・ショック、再び?>というものだ。

しかし、原油安にしても人民元安にしても、そしてハイイールド債の下落にしても、今になって急に浮上したリスク要因ではなく、これまでずっと続いてきた事象である。要は、9年ぶりとなる利上げが確実視される米国FOMCを前に、市場で不安心理が極度に高まっていることが、これらの材料に過剰反応してしまう理由なのだろう。僕自身、一昨日のレポートで、「万が一...」に備えて手仕舞えるものは手仕舞ったほうがいいと書いた。ブラックスワンの影がちらっと脳裏によぎった投資家が、掛け捨ての保険のつもりでプット・オプションを買ったとしよう。ひとつひとつのポジションは少額だとしても、そうしたヘッジ・ポジションが積み上がれば、FOMCを控えて動きのとれない閑散相場のなか、簡単に指数を押し下げる要因になるだろう。

以上が、一般的な相場の見方である。ここからはもうひとつの見解。相場は、どこから崩れ始めたか?月初のECB理事会の決定を受けてからだ。12月10日付の市況コメントでは、こう述べた。

<先週のECB追加緩和を受けたマーケットの反応が参考になる。「追加緩和策が物足りない」「失望」「ネガティブ・サプライズ」等のコメントがあふれ、マーケットではユーロが強烈に買い戻された。しかし、実際に市場の期待通り「満額回答」であったとしても材料出尽くしでユーロは買い戻されただろう。それだけ市場の見方とポジションがひとつの方向に偏っていた。まさに「Sell On Fact」だ。FOMCでもそうなる可能性が高いと考える>

市場は、デジャヴを予感したのだろう。デジャヴ(既視感)とは、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じること。だから、厳密には、「デジャヴを予感した」という表現は正しくない。何が言いたいかと言えば、ECBの決定⇒材料出尽くし⇒ユーロ売りポジションの買い戻し、という展開を目の当たりにして、FOMCでも同様のことが起きると多くの投資家が思い始めたのだろうということだ。実際に利上げが決定されれば、材料出尽くしでドル安となる。対円でも円高となって、日本株も売られる。そういうシナリオの蓋然性が高まったのだ。

と、するなら、月初のECB理事会以降、市場は、「Sell On Fact」に備えてポジション調整をしてきたと言える。このFOMCは世紀のイベントだ。機動的に動くことを主眼とする投資家で、結果発表まで引っ張る向きはいない。ならば、もう既に出るべき「Sell On Fact」の売りは出てしまったと思われる。

前回のレポート「ブラックスワン」で述べたポイントは、「要は相場次第」。原油が下げ止まらず、NYの株価も暴落するなら利上げ見送りというシナリオもあり得た。しかし、FOMCが始まると、その相場がしっかり反発してきた。相場次第なのだから、もうこれでリスクシナリオの目もなくなった。そして、「Sell On Fact」のポジション調整も出尽くしたと思われる。

みんなが裏のシナリオに備えてきた。<材料出尽くし>の売りも出尽くした。裏の裏は表。FOMCというイベント通過は買い材料になるだろう。

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