チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
二番煎じ 節分天井・彼岸底
「底なし沼と普通の沼はどう違う?」「底がないか、あるかですか?」「底がない沼なんてない。ようは人間の幻想の有無なんだ」(森博嗣「誌的私的ジャック」)
底なしのように思われた株式相場の下落にも、ようやく歯止めがかかった。下げ止まらない相場を前にすると、「底割れする」とか「底が抜ける」という表現がメディアに踊るが、相場の底が抜けることなんてない。明けない夜がないのと同じで、相場はいつか下げ止まる。夜明け前がいちばん暗いのと同じで、下げ止まる直前は陰の極、市場のセンチメントがもっとも暗い時だ。
冒頭に引いた森博嗣の文章は、昨年まで連載していたコラム「新潮流」で一度使ったものだ(第230回「ヘッジファンドの決算を巡る通説」)。使い回し、つまり「二番煎じ」である。「二番煎じ」とは、一度煎じたものを使って、もう一度煎じ出した薬または茶。転じて、前のくり返しで新味のないものの喩えである。
昨年夏のチャイナショックの再来と言われる年初からのこの世界株安も、二番煎じである。中国不安、原油安、米国利上げ - 同じ材料で同じように売られている。チャイナショックでは日経平均は2万1000円の手前から1万7000円割れまで約4000円下げた。今回は昨年12月の戻り高値2万円から1万6000円まで同じく4000円幅の調整だ。戻りに転じるきっかけも、ECBによる追加緩和期待の台頭というところまで同じである。
所詮、「二番煎じ」なのだから、新味に乏しく、よって怖くない。前回のレポートで指摘した通り、「恐怖指数」と言われるボラティリティ指数が上昇していない。さすがに日経VIは40越えまで上昇したが、それでも昨年8月の水準を超えていない。日経VIが47という高水準に急騰した昨年8月25日の日経平均は1万7800円。株価はその時より1800円も下げたにもかかわらず、である。米国のVIXに至ってはいまだに20台である。年初からいきなりの下げで、投資家がフルに臨戦態勢をとっていなかったことが幸いしたのだろう。オプションでヘッジ・ポジションを構築するほどのニーズがないのだ。つまり、投資家の懐はそれほど痛んでいないと思われる。
であれば、案外あっさり戻すということも考えられるが、やはり「二番煎じの相場」であるということを念頭において、もう一度、二番底を探りにいく展開をメインシナリオとしたい。
目先はここで一旦底打ちから反転に向かうが、戻り相場は短命に終わるだろう。前回も初期反騰は半値戻しに届かなかった。「半値戻しは全値戻し」だから、二番底を模索するというシナリオなら当然だろう。よって、1万7000円台半ばまでの戻りが精いっぱいで1万8000円回復にはまだ時間を要するだろう。
日米欧の中央銀行による緩和姿勢の協調策が戻り相場の支えだが、特に日銀に関しては期待しないほうが無難だ。そもそも28-29日の決定会合で追加緩和期待が高まったのは株安・円高が急速に進んだためだ。そのリスクオフの流れが一服したら、ここで追加緩和するというインセンティブ自体が日銀にとってなくなる。株価がここで下げ止まるという前提に立てば、おそらく日銀は緩和を見送るだろう。
日銀会合に先立つ26-27日はFOMCがあり、声明文でなにかしら足元のマーケットの動揺に懸念を示すだろう。それは3月と見られている次回利上げを遅らせる期待につながり相場のサポートになる。だが上述の通り、日銀は追加緩和を見送るだろう。そこで市場の期待が萎み、戻り相場もそれまでとなろう。非常に低い天井だが、「節分天井」である。
本格的な相場の底入れは3月になるだろう。今度こそECBドラギ総裁は踏み込んだ追加緩和を実施する。ECB理事会は3月10日だ。それを受けて15-16日にはFOMCが開催される。そこで利上げが見送られれば、相場は狂ったように上がるだろう。
そういうお膳立てを欧米にしてもらえれば、4月実施と見ている日銀の追加緩和もそれなりに効果を発揮するだろう。逆に言えば、ECBとFRBがどういうアクションをとるか分からない前に、日銀だけが単独で動いても効果は薄いどころか金融緩和策の手詰まり感、打ち止め感でかえって円高株安を招きかねない。
今回の相場変調の背景については、いろいろな解説がなされる。中国景気不安、原油安、米国の利上げ、新興国からのマネー流出、中東の混迷、etc. しかし、それらの材料はこれまでずっと取沙汰されてきたものであり、新味に欠けること極まりない。
年明けからの急落が目立ったために忘れがちだが、相場が崩れ始めたのは昨年12月からである。ECBの追加緩和に対する失望感、米国の利上げ、日銀の補完措置という愚策。いずれもこれまで相場の根底に流れていた金融緩和に逆行するようなアクションのそろい踏みとなった。それこそが年初からの相場変調の背景だろう。だとすれば、やはりもう一度、日米欧の中央銀行が緩和的なスタンスで足並みをそろえて見せることが相場回復の条件に違いない。いつまでも緩和マネー頼みの金融相場から脱しきれない。健全か不健全か、この際そんな議論はわきに置いておこう。今はまず、このスパイラル的な相場下落を断ち切ることが先決だ。
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