チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
相場を予想するということ
リスク回避姿勢の緩和で目先堅調推移
以下は先週金曜日の寄り付き前に、当日の株価の見通しを聞かれて述べたものである。日経QUICKニュースで配信された。
<株、4日続伸か・広木氏 リスク回避ムード和らぎ「定石」覆す>
「広木隆・マネックス証券チーフ・ストラテジスト 4日の日本株相場は堅調な展開になりそうだ。利益確定売りをこなして日経平均株価は4日続伸する可能性が高い。終値で節目の1万7000円を超えられるかが焦点となる。
日経平均は前日までの3日間で900円あまり上昇し、市場の関心が高い2月の米雇用統計の発表を日本時間夜に控えている。定石通りなら利益確定売りにおされる展開だが、運用リスクを回避するムードは和らぎ始めたばかり。来週以降、市場心理を大きく悪化させるような材料も見当たらない。目先は上昇基調の継続が期待でき、4日も大きく売られた銘柄へ見直し買いを入れる動きが一部では続くとみられる。」
金曜日の株式相場はまさにヨミ通りの展開となった。コメントで述べたように日経平均は3日間で900円高と急ピッチで上げてきただけに利益確定売りに押され朝方は100円近く下げた。しかし、売り一辺倒ではなかった。売り買い交錯するなか次第に買いが優勢になり、終値は54円高、1万7000円の大台を約1カ月ぶりに回復して引けた。
年初から記録づくめの下げ相場だった。振り切れるまで弱気に傾いた振り子の針が、ようやく逆に振れ始めたのだ。今年初の3日続伸を達成した翌日、簡単に利食い売りで反落というセオリー通りの展開にはならないだろうと読んだのだ。
「来週以降、市場心理を大きく悪化させるような材料も見当たらない。目先は上昇基調の継続が期待できる」と述べたのは以下の理由による。
①期末に向けGPIFを中心とした国内年金の買い余力はかなり残っていることから、3月末にかけて結構な「お化粧買い」が入ることへの期待感が高いこと。株式の時価ベースの組み入れ比率が株価下落によって低くなっているため、アロケーションの調整が必要だろう。年金の組み入れ比率調整に絡む買いは、これまでも日々断続的に入ってきていることが観察されていたが、期末に向けては待ったなしだ。3月相場は年金の株式組み入れ比率の向上で株式の需給が相当引き締まってくるだろう。
②自社株買いの増加(2月22日付けストラテジーレポートご参照)
③米国経済指標が改善傾向にあること。耐久財受注、GDP改定値など一連の指標がみな上ぶれし、先週発表されたISM景況感指数は製造業・非製造業ともに市場に予想を上回った。こうしたことから雇用統計も悪い結果にはならないだろうという連想が働いて当然だった。果たして金曜日に発表された2月の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月から24万2000人増えた。19万人増程度を見込んだ市場予想を上回ったほか、過去2カ月分の雇用者数の伸びも上方修正された。一時台頭していた米国のリセッション入り懸念も後退している。
④原油価格の底打ち反転が鮮明になっていること。
⑤G20での「政策総動員」という合意を受けて、市場では各国の政策期待が高まっていること。
政策期待で言えば5日には中国で全人代が始まっている。中国はすでに預金準備率の引き下げをおこなっているが今後財政出動もあり得るだろう。あまり筋の良い政策とは言えないが今の市場には好感されるだろう。
今週はECB理事会が注目だ。ドラギ総裁は追加緩和を示唆しており、前回市場の不興を買ったことを考えれば2回続けての「不発」「失望」はあり得ない。思い切った緩和策 - おそらくマイナス金利幅と月間の資産買い入れ額の両者を拡大するだろう。ECBの緩和期待が相場の下支えとなって堅調地合いは週後半まで続くだろう。しかし、前述したように、ドラギ総裁は12月に市場の失望を誘った「前科」がある。日経平均が1万7000円台で週後半まで推移すれば、ECB理事会を前にポジション調整が今度は起こるだろう。
米国の雇用統計について言及すべき点は市場の反応である。ダウ平均は4日続伸し終値は前日比62ドル高の1万7006ドルと、こちらも日経平均に追随するかのように1月5日以来およそ2カ月ぶりに1万7000ドル台を回復した。良好な経済指標を前向きに評価できるようになったという意味で地合の改善を指摘できる。但し、先週末のNY市場の上昇は原油高の影響が大きい面があるということと、雇用統計で注目された賃金の伸びが鈍かったという点には注意が必要だ。米連邦準備理事会(FRB)による断続的な利上げ観測も高まりにくく、結局は緩和的な金融政策が長引くとの思惑が買い安心感につながったとすれば、この先も波乱の芽は少なくない。
相場は精神力
冒頭のような市場予想のコメントを紹介すると、「たまたま当たったときだけ自慢気にひけらかして、年初からの変調相場は大外れではないか」とのお怒りの声もあるだろう。相場が下落すると、途端に僕に対する悪口が増える。「見通しを外した責任をとれ」「頭を丸めて謝罪しろ」「辞めろ」「死んでしまえ」などありとあらゆる罵詈雑言が寄せられる。
これまで何百回も繰り返していることだが、予想というものは当たったり外れたりするものだ。外れることがなく必ず当たるなら、それは超能力である。そしてそんな力があるなら、ストラテジストなんて商売をやっていない。自分で相場を張って儲ければいいからだ。
まあ、そのくらいのことは悪口を言ってくるひとたちもわかっているだろう。では、なぜ悪口を言ってくるのか。八つ当たりである。相場がうまくいかない腹いせだと思われる。投資家のそういう不満のはけ口になるのも、ストラテジストの給料の一部だと思えばいいのだけど、やっぱり悪口を言われれば、人間だもの、腹が立つ。
先日、かっとしてツイッターで言い返してしまった。そうしたら、今度はその物言いが高飛車だ、上から目線だ、とちょっとした騒ぎになった。俗に言う「炎上」というやつだ。僕はネットの掲示板なんか見たこともないから知らないのだけど、「あっちこっちで言われてますよ」と皆がご丁寧に知らせてくるのには閉口した。
もうどうにでもなれと思った。自暴自棄になっていた。穏当にやんわりと諌めてきた松本大に対しても、跳ねっ返った失礼な態度をとった。相場が荒れるとひとびとの心が荒(すさ)むと知りながら、僕自身の心も荒んでいたのだ。
僕は常々、相場を張る効用のひとつに精神力の鍛錬になるということを説いている。相場を張ると、不安、懐疑、恐怖、悲観、楽観、歓喜、陶酔、興奮など様々な感情を味わう。それらの感情に流されては冷静な判断ができない。いかに自分の感情を意志の力でコントロールし、最善と思われる意思決定を続けていくことが投資で成功する要諦である。
先日も、「相場の先行きが不安で夜も眠れません」と相談してきた方にこう回答した。
「眠れなくて当然です。相場を張るとはそういうことです。この難局を強い精神力で乗り越えられたら、あなたの投資力は格段に向上するでしょう」
そんな偉そうなことを言いながら、僕自身、精神的に相当参っていた。それほどの酷い相場だったということだ。
確かに酷い相場だった。しかし、物事には常に二つの側面がある(これも何百回も繰り返していることだ)。中国景気減速、原油安、欧州金融機関の信用不安、過剰な資本規制、新興国からの資本流出、米国経済と金融政策の行方、etc. こんなに懸念材料や不透明要因が多ければ、年初からあれほど大きな株価下落に見舞われたのも納得がいくが、逆に考えれば、年初からのこの2カ月でこの先考えられる悪材料はほぼ織り込んでしまったとも言えるだろう。
悪材料が次から次へと噴出してきたときのイメージは、オセロの駒が次々と黒に変わっていくようなものだ。ようやく流れが変わり始めた。今度は、オセロの駒がひとつずつ黒から白へ変わっていく番だ。そうであれば、黒い駒が多ければ多いほど、「好転」という材料は多いということになる。これぞ、禍を転じて福と為す、である。
プロフェッショナルとは
悪口のなかに「プロのくせに」とか「それでもプロか」という言葉をよく見かける。僕はプロである。プロとアマの違いは何か?昨日の日経新聞読書欄「半歩遅れの読書術」に経済学者の松井彰彦氏が伯父で碁打ちの藤沢秀行の言葉を紹介している。
「アマチュアのかたは攻めているうちは威勢がいいのですが、いったん攻められるともろいという欠点があるようです。そこへいくと、プロはシノギの強さに筋金がはいっているといってよく、相手の攻めを巧みに受け、かわしながら、逆に一太刀浴びせようとします」(『藤沢秀行囲碁学校』)
精神的に参りながら、真っ暗闇のどん底で僕が浴びせた一太刀が、2月15日付けレポート「目先の底値に到達 反騰タイミングは従来通り3月との見通しを維持」である。暴風雨のなかでも、弱気に流されることなく、しっかりとここが底値だと言えた。プロの仕事ができたと自負している。
相場が荒れ、ひとびとの気持ちも、そして僕自身の心も荒んでいた。辛い時期だった。そんな時に、やさしい言葉をかけてくれたひとがいた。心がささくれだっていた僕には何よりの励ましだった。深く心に沁みた。ありがとう。
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