松本 大
マネックスグループ株式会社 取締役会議長 マネックス証券 ファウンダー
大槻 奈那
名古屋商科大学大学院教授
創業期からの挑戦 ── 機関投資家と個人投資家の 「情報格差」を打ち破る
マネックス証券の個性豊かなアナリスト陣を紹介するにあたり、まずは当社のリサーチの原点についてお伺いします。創業時の1999年、機関投資家(プロ)と個人投資家の間には、どのような情報格差があったのでしょうか。
松本 当時はそもそも流通している情報そのものが全然違いました。特定のプロだけに情報が開示される「セレクティブ・ディスクロージャー(選択的開示)」が公然と行われていたし、証券会社にある東証が提供する専用端末でしか見られない市場の手口情報なんかもあった。
それをもとに機関投資家への営業が行われていたわけで、とにかく不平等だったんです。アナリストレポートにしても、プロ向けのものと個人向けのものとでは、内容の質に天と地ほどの差がありました。
その格差に対して、マネックス証券はどう挑んだのですか?
松本 私は「すべての個人投資家に、プロと同等のフェアな投資環境を提供する」という想いで会社を作ったので、まずは自分自身の環境を縛ることから始めました。創業時、社内でブルームバーグやQUICKといったプロ向けの専用情報端末を、私はあえて持たないことに決めたんです。
大槻 その決断はすごいですよね。金融の世界にいた人間からすれば、画面なしで戦うようなものですから。
松本 そうじゃないと、個人投資家のお客様が何を見ているのか、何に困っているのかが分からなくなっちゃうでしょう。自分だけがプロ用の画面を見て安心してしまうのは良くない。みんなが見られるPCの画面だけを見て、「何が足りないのか」を肌で感じてサービスを作っていこうと最初から決めていました。
お客様目線に立つという確固たる決断ですね。
松本 その後、プロ向けのリサーチを自社でも提供しようと考えたときに、証券会社側(セルサイド)の発想ではなく、本当に投資家の利益に資する運用者側(バイサイド)の視点を持った人に来てもらおうと、体制を整えていきました。それが、今のマネックス証券のリサーチへと繋がっていきます。
時間のアロケーションを埋める ── 個人投資家を決して甘く見ない、 リサーチの哲学
大槻さんは機関投資家リサーチの世界からマネックス証券に合流しましたが、個人向けのリサーチへ転換する中で、どのような変化がありましたか?
大槻 私がマネックス証券に入ってすぐの頃、全国投資セミナーの直前に松本さんから言われた言葉で、今でもすごく印象に残っている一言があるんです。それは、「個人投資家を馬鹿にするような態度や思いのある人は、うちの会社にはいらないから」という言葉でした。
松本さんのお客様に対する本気度が伝わるエピソードですね。
松本 だって、機関投資家という組織も、結局は個人(の集合)ですからね。非常によく勉強されている個人投資家と、プロ・機関投資家と呼ばれる人で、人間の能力に何の違いがあるんだと昔からずっと思っていました。
大槻 そのときに松本さんが続けておっしゃったのが、「機関投資家と個人投資家の違いは、時間のアロケーション(配分)だけである」ということでした。プロは1日中、投資の分析に時間を費やすことができます。
一方で個人投資家の方は、本業や生活がある限られた時間の中で投資判断を下さなければならない。だからこそ、私たちの役割は、その足りない分析時間を埋め、正しい意思決定に導くための一助となるリサーチを提供することなんだ、と。
とはいえ、プロ向けの内容を個人向けに翻訳するのは大変な苦労があったのでは?
大槻 すごく苦労しました(笑)。専門的なディテールをそのまま並べても伝わらないし、だからといって細かさを省いて内容を薄くしすぎても、質の高い情報にはならない。そのバランスが本当に難しくて。マネックス証券のアナリスト陣はみんな、そこをどうストーリーとして読みやすく、かつ深く伝えるかという加工技術に、今も日々試行錯誤を重ねていると思います。
ネット証券がなぜ「対面」にこだわるのか ── 全国セミナーと投資教育への想い
マネックス証券はネット専業でありながら、創業期から精力的にお客様とのリアルの接点を持ち続けていますよね。これはどういう意図から始まったのでしょうか。
松本 インターネットは、一度に多くの人へ情報を届け、ブロードキャストするには最高の道具です。でも、「何を届けるべきか」という中身の部分は、実際にお客様の前に立って、その顔色を見ないと分からないと思うんですよ。私たちの提供した情報に満足いただけたのか、それとも別のことを知りたがっているのか。地方まで足を運んで直接フィードバックを得て、それをオンラインのサービスへ還元していく。このサイクルが不可欠なんです。
大槻 全国投資セミナーやお客様感謝Dayで直接お客様にお会いしてお顔を見ること、お話をしてこういう風に見ておられるのだという感触を得ることは、アナリストにとっても大きなヒント・やりがいになりますよね。他のオンライン証券で、ここまで地道に地方を回るセミナーを続けているところは他にないのではと思います。
もう一つ、マネックス証券を語る上で外せないのが「投資教育」です。大槻さんはマネックス・ユニバーシティ長も務めましたが、こちらの思想についてはいかがですか?
松本 創業当時、一時は「会社の利益の10%を投資教育に使おう」と大真面目に議論していたくらい、教育にはこだわっていました。私は、投資をする本人がリテラシーを高めない限り、良い資産形成はできないと思っています。お金というのは命の次に大切とも言われるものなのに、「楽して儲けよう」なんて都合の良い話はない。私たちはいくらでもお手伝いをしますが、お客様ご自身がしっかりと内容を理解し、ご自分の投資の主役になっていただきたいと考えています。
大槻 かつての証券界には「お客様は中身が分からない方が、会社都合の商品を売りやすい」という風潮すら一部にありました。そんな中で、マネックス証券が基礎教育を実直に続けたのは、目先の売上ではなく、持続可能(サステナブル)なお客様との関係を作りたかったからなんですよね。
マネックス証券の未来を創るアナリスト陣 ── ハウスビューを持たないカオスと 「インテリジェンス」
これから紹介するマネックス証券のアナリスト陣は、本当にみんなユニークというか、尖った個性を持ったメンバーばかりです。
大槻 本当にそうですね(笑)。みんな自分の意見に強いプライドを持っていて、良い意味で相手の意見に合わせない、曲げない。時として意見が衝突するくらい尖っています。
松本 リサーチ部門を作るとき、一番最初に、会社としての統一見解(ハウスビュー)は絶対に作らない。アナリストのレポート内容に、会社は一切指図をしないというルールを徹底しました。昔の証券会社には、会社の営業方針に合わせてリサーチ内容を変えさせるような古い慣習がありましたが、そういうのは絶対にダメだと。人によって言うことが違っても構わない。それぞれがプロとして独立した意見を発信することにこそ価値があるんです。
会社の顔色を伺わないからこそ、信頼できる生の声が届くのですね。それでは最後に、これからを生きる投資家の皆様に向けて、メッセージをお願いします。
大槻 現代人が1日に触れる情報量は、平安時代の人の一生分とも言われるほど。情報はどこにでも溢れていますが、マネックス証券のアナリスト陣は、それらを長期的なリターンに繋がるストーリーへと加工する高い技術を持っています。これだけ分野ごとに過不足なく充実したリサーチ部隊を持っているところは他に知りません。ぜひ彼らの分析力を、皆様の武器として使い倒していただきたいです。
松本 私は昔から「インフォメーション(情報)」と「インテリジェンス(知恵)」はまったく違うと言い続けています。現代はデータの収集や表面的な分析くらいならAIがいくらでもやってくれる、与えられる時代です。
その情報をどう解釈するのか、今までのセオリーが通じない局面でどう先を見通すのかというのがインテリジェンスです。アナリストチームは情報の編集ではなく、このインテリジェンスを伝えようとしています。
個人投資家の皆様には、彼らのレポートを通じて知恵を吸収し、ご自身なりのインテリジェンスを磨いて、より良い投資アクションを起こしていっていただければ嬉しいですね。
松本 大
マネックスグループ株式会社 取締役会議長 マネックス証券 ファウンダー
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、その後代表執行役会長。2025年4月より会長(現任)。東京証券取引所の社外取締役を5年間務め、政府のガバナンス改革会議等に参加し、日本の資本市場の改善・改革に積極的に取り組んで来た。ヒューマン・ライツ・ウォッチの副会長を務め、現在は米国マスターカード・インコーポレイテッドの社外取締役。東京大学法学部卒業。
大槻 奈那
名古屋商科大学大学院教授
内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investor誌(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。ピクテ・ジャパン シニアフェローを兼務。日本成長戦略会議 資産運用立国推進分科会委員、国債投資家懇談会座長、財政制度等審議会委員等を勤める。日本経済新聞、ロイター、ダイヤモンドオンライン、DOW JONES 読売新聞 Pro等で連載。マネックス証券では、2016年より約6年8か月間チーフ・アナリストを務め、マネックス・ユニバーシティ長も歴任。