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エフィッシモ・キャピタル・マネジメント

東芝は2021年3月18日に臨時株主総会を開き、筆頭株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(以下、エフィッシモ)の株主提案を可決しました。これは日本のコーポレートガバナンスにとって、画期的な出来事と言われています。

エフィッシモは、東芝にどのような株主提案をしたのでしょうか。今回は、エフィッシモが実際にどのような投資手法を行っているのかについて解説します。

エフィッシモとは

エフィッシモは、旧村上ファンドの幹部であった高坂卓志氏ら3人が、2006年にシンガポールで立ち上げた投資ファンドです。日本株の推定運用額は1兆円を超え、「国内最強アクティビスト」と言われています。そして、投資先企業に対する積極的な提案活動を行っていることで有名です。

2008年には学研ホールディングスに社長解任の株主提案を提出しました。翌2009年には、持ち株会社化に反対して買い取り請求権を行使しました。その後、学研ホールディングスは、総額48億円でエフィッシモの全保有株を買い取りました。

また、2019年6月には日産車体に対して定款の一部変更(取締役会議長は社外取締とする・指名委員会等設置会社への移行)の株主提案を提出しています。この株主提案は否決されたものの、37.4%の賛成率を獲得しました。

このように企業に対して積極的に株主提案をするエフィッシモですが、他にも2019年に川崎汽船に対して行った買い占め策が有名です。

クリーピング・テイクオーバーで川崎汽船を追い込んだエフィッシモ

2019年の6月、川崎汽船は筆頭株主であるエフィッシモから、パートナーである内田龍平氏を社外取締役として受け入れました。

実は、川崎汽船は2015年に買収防衛策を廃止していました。防衛策は経営陣の保身につながるとして投資家からの批判が強かったからです。

川崎汽船は国内外の機関投資家の声を参考に、防衛策の必要性が低下したと判断しました。2014年に200円台で推移していた株価が2015年に350円を超す水準まで上昇し、時価総額が増加したことによる買収リスク低下も、防衛策を廃止する判断の要因となりました。

しかし、そこからエフィッシモの攻勢が始まりました。2015年9月にエフィッシモが提出した大量保有報告書で、川崎汽船の株式を6.18%保有していることが明らかになりました。

そしてエフィッシモは、「クリーピング・テイクオーバー」と呼ばれる戦術で川崎汽船を追い込みました。これは市場で段階的に株式を買い集め、最終的には実質的な支配権を握るまで保有比率を高めていく手法です。少しずつ保有比率を高めることで、経営陣に揺さぶりをかけていくのです。

エフィッシモはクリーピング・テイクオーバーによって株式を買い集め、2018年6月には保有株比率が38.99%になりました。株式を3分の1超保有すると、M&A(合併・買収)や定款変更、重要な資産譲渡などの企業の重要な意思決定である特別決議を、単独で阻止できるようになります。

ここまで保有株比率を上げたエフィッシモの提案を断るのは難しく、川崎汽船はエフィッシモから社外取締役を受け入れる要求を飲んだのです。

東芝が臨時総会でエフィッシモの株主提案を可決

2021年3月18日に東芝は臨時株主総会を開き、筆頭株主であるエフィッシモの株主提案を可決しました。株主提案の内容は、2020年7月に開催した定時株主総会の運営の適正性について、独立調査を求めるというものでした。

2020年9月に複数の株主の議決権行使書が、信託銀行の集計業務で無効になっていたことが発覚しました。さらに東芝の圧力で議決権行使を断念した株主がいると、エフィッシモは主張しました。

これらを調査して問題がなかったとする東芝に対し、エフィッシモは第三者による再調査を求めました。

そして、エフィッシモの株主提案が可決されたことは、日本の企業統治(コーポレートガバナンス)にとって画期的な出来事と受け止められています。株主が開催を求めた総会で、株主提案が可決されるのは大企業では異例だからです。

株主関連サービスのアイ・アールジャパンによると、日本で株主提案が可決した事例は、今回の東芝を含めて4社しかないとのことです。2014年以降で80社の株主提案がありましたが、3社しか可決されていないそうです。

ただ、東芝は外国人投資家の保有比率が6割を超え、アクティビストも2割超保有していると見られています。米議決権行使助言会社大手のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスが、エフィッシモの提案に賛成していたことから、多くの外国人投資家が賛同したと考えられます。

東芝は不正会計で自己資本が大きく失われ、2017年12月に約6,000億円の第三者割当増資を行いました。その多くを引き受けたのがアクティビストやヘッジファンドです。その結果、東芝の株式の外国人保有比率は2019年3月末に70%にもなったのです。

現在の外国人保有比率は60%程度になっていますが、東芝の経営は外国人投資家の意向を重視しなければいけません。そして、株式の2割超を保有しているアクティビストの存在も無視できません。

しかし、東芝はアクティビストとの対立を楽観視していた可能性があります。

東芝は2021年1月29日に東証一部に復帰したからです。東証一部復帰によりTOPIX(東証株価指数)に組み込まれることになり、インデックス投資家の買いが見込まれます。インデックス投資家は基本的に中長期で株式を保有するので、東芝の成長戦略も短期的なものから中長期を見据えたものに変えやすくなります。

東芝はインデックス投資家の買いにより株価が上昇すれば、値上がり益を求めるアクティビストは株式を売却し、インデックス投資をしている機関投資家が安定株主になってくれるだろうと期待していたのです。

しかし、2021年6月に開催予定の東芝の定時総会は、車谷社長など経営陣にとって正念場となりそうです。また、今回のエフィッシモの勝利によって、2021年の株主総会ではアクティビストの株主提案が増えることが予想されます。

アクティビストの提案に機関投資家も賛同するなか、東芝のみならず、他の日本企業も株主と緊張感を持って向き合わなければいけない時代になってきていると言えるでしょう。

引用元:マネックス証券のオウンドメディア「マネクリ」の「アクティビストタイムズ(2021年3月30日)

執筆者:山下 耕太郎氏

一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・デリバティブディーラーを経て個人投資家に転身。現在は、日経225先物を中心に、現物株 、FX、CFDなど幅広い商品に投資しています。投資歴20年以上の豊富な経験で、初心者にもわかりやすい記事の執筆を心がけています。 保有資格:証券外務員1種

山下 耕太郎氏

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