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サード・ポイント

「サード・ポイント」は米国を代表するアクティビストで、約150億ドルを運用しています。ダニエル・ローブ氏が1995年に設立したヘッジファンドです。投資対象は主に時価総額の大きな大型株で、日本ではセブン&アイ・ホールディングスやIHI、ソニーなどに投資しています。米国では過去にヤフーに投資して、当時のCEOを辞任に追い込んだこともありました。

企業に改革を強く求めることで知られるサード・ポイントですが、近年は投資手法に少し変化も見られます。今回は、過去の例を見ながら、サード・ポイントの投資手法について解説していきたいと思います。

ソニーの株価にも大きな影響を与えたサード・ポイント

サード・ポイントが日本株への投資で注目を集めたのが、ソニーへの提案です。サード・ポイントは、これまでセブン&アイ・ホールディングスやIHIなど日本の大企業にも投資していますが、中でもソニーに対しては2度にわたって圧力をかけてきました。

まず、サード・ポイントは、2013年にソニー株を保有していることを発表し、映画などのエンターテインメント事業を分離して株式上場するように迫りました。その後、同社はソニー株を売却したものの、2019年6月に再びソニー株を15億ドル保有していると発表し、ソニーに対して上場子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス、医療情報サービスのエムスリー、オリンパスなどの株式売却と、画像センサーなど半導体事業の分離・独立を迫りました。

サード・ポイントの動向は、ソニーの株価にも大きな影響を与えました。サード・ポイントが2019年6月にソニー株を保有していることを発表すると、株価は7月にかけて上昇しました。同年7月5日には5,976円をつけて年初来高値を更新しました。

2020年8月18日にはサード・ポイントが同年4~6月中にソニー株を大量に売却していたことが判明しました。2019年末には150万株保有していましたが、2020年3月には67万株と半分以下に減らし、さらに6月末時点では1万株以下か、すべて売却したと見られています。

この報道を受け、2020年8月19日のソニー株は売り気配ではじまり、前日比150円安の8,618円で寄付ました。

サード・ポイントはソニーに対して高い要求を出しましたが、最初からすべての要求を受け入れられるとは考えていなかったようです。

米国のビジネス交渉では「ハイボールテクニック」がよく使われます。ハイボールテクニックとは、交渉相手に高い要求(ハイボール)を投げ、次第に要求を通りやすくさせるテクニックのことです。サード・ポイントの狙いは保有株の高値での売却です。高い要求を出せば、ソニーの経営陣も何らかの対策をとらざるを得なくなると考えたのでしょう。

例えば2019年にはサード・ポイントからの要求によって、ソニーは同年8月にオリンパス株を売却しました。これによりソニーの株価は上昇しました。また、サード・ポイントはソニーに対して半導体事業の分離も要求していましたが、ソニーは半導体事業を成長戦略の要としていたので分離には応じず、オリンパス株の売却によってサード・ポイントの要求に応えるかたちをとりました。

アクティビストの手法の変化

サード・ポイントを率いるダニエル・ローブ氏は、メディアを使って大々的に企業に攻勢をかけることでも知られています。

サード・ポイントなどのアクティビストは高圧的な態度で企業と対峙するわけではありません。アクティビストが株主提案をする一般的なプロセスは、以下の通りです。

(1)株式を数パーセント取得し、面談の要請や書類の送付する
(2)水面下でエンゲージメント(話し合い)を行なう
(3)大量保有報告書や保有開示を行ない、株式保有を発表
(4)ネットや書簡などでキャンペーンを行なう
(5)株主総会で委任争奪戦(プロキシーファイト)

2019年にサード・ポイントがソニーに対して提案したのはエンゲージメントでした。2000年代のアクティビストの手法では、株式を10~50%程度取得して敵対的TOBを仕掛けるなど強圧的な方法が多く見られました。短期的な利益のみを追求し、保有株を高値で買い取らせる「グリーンメーラー」のようなアクティビストが少なくなかったのです。そして、その代表格と見られていたのが、ダニエル・ローブ氏が率いるサード・ポイントでした。

そのサード・ポイントも2010年代になると取得株式を5%以下に抑えながら、他の株主も同意できるような対話(エンゲージメント)を重視し始めました。

サード・ポイントは、2019年6月に100ページを超える「A Stronger Sony」というソニーに対する経営改善要求のプレゼンテーションをウェブサイトに公開しました。投資先企業であるソニーについて徹底的に分析し、理屈で他の株主にも訴えながら提案を通そうとする手法に変えていったのです。

アクティビストの変化の背景は?

2000年代から2010年代以降のアクティビストの変化には、資金の出し手が変わった影響もあります。金余りが世界的に進む中、年金基金といった長期投資家の資金がアクティビストに流れ込むようになり、中長期的な企業価値の向上になる株主提案が求められるようになったのです。

そして、以前よりも莫大な資金が集まるようになり、投資額も拡大しています。例えば2020年12月、サード・ポイントがインテルに事業見直しを要求したことが明らかになりました。その際の同社のインテル株の保有額は公開されていませんが、ロイター通信の報道によると10億ドル(約1030億円)近くになるとのことです。

インテルに対し、サード・ポイント創業者のダニエル・ローブ氏は、設計・開発から製造までを手掛ける垂直統合的な事業モデルの見直しや、過去の買収でうまくいかなかった案件について売却を模索するように要求しました。

ただ、米国株式市場は主要3指数が過去最高値を更新する中、割安株は少なくなっています。そして、多くの米国企業がアクティビストに狙われないよう、コアでない事業を売却したり、PBR(株価純資産倍率)を高めるなどの対策を進めています。

今後は米国よりも株価指標面で割安株が多く、アクティビスト対策を十分に行っていない企業が多い日本市場をターゲットにする可能性は高いように私は思います。サード・ポイントが次にどのような企業をターゲットにするのか、今後も注目していきたいころです。

引用元:マネックス証券のオウンドメディア「マネクリ」の「アクティビストタイムズ(2021年2月16日)

執筆者:山下 耕太郎氏

一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・デリバティブディーラーを経て個人投資家に転身。現在は、日経225先物を中心に、現物株 、FX、CFDなど幅広い商品に投資しています。投資歴20年以上の豊富な経験で、初心者にもわかりやすい記事の執筆を心がけています。 保有資格:証券外務員1種

山下 耕太郎氏

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