2021年に入り、主要通貨ペアの中では最も変動率の高い「英ポンド/円(GBP/JPY)」。そんな英ポンド/円について、マネックス証券 チーフ・FXコンサルタントの吉田 恒が分析した特別レポートをお届けします。
また、マネックス証券のFXサービス「FX PLUS」で、英ポンド/円・英ポンド/米ドルのスプレッドを縮小するキャンペーンを実施中です。期間は、2021年6月21日(月)9:00~9月4日(土)5:55です。
チーフ・FXコンサルタント 吉田 恒が英ポンド/円を分析
今年に入ってからの主要な通貨ペアの変動率(<高値-安値>/6月15日終値)を調べたところ、新興国通貨を除くと英ポンド/円が唯一10%を上回っていました(図表1参照)。その意味では、英ポンド/円は、主要通貨の中で「最もよく動いている通貨ペア」といえるでしょう。
【図表1】
(出所:マネックストレーダーFXをもとに作成)
そこで今回は、「よく動く英ポンド/円」について、「上がる理由」と「下がるリスク」などについて解説してみたいと思います。(執筆:2021年6月15日)
英ポンド/円の「上がる理由」と「下がるリスク」
前述のように、英ポンド/円は、今年に入りこれまでのところ主要な通貨ペアの中では最も高いボラティリティー(変動率)となってきましたが、ただ同じ英ポンドでも英ポンド/米ドルのボラティリティーは5%台で、ほとんど英ポンド/円の半分程度にとどまっています。
以上から考えられるのは、今年これまで英ポンド/円が英ポンド/米ドル比でよく動いた要因は、日本と英国のコロナ後景気回復の差が大きそうだということです。
今年に入ってからの英ポンド/円は、とくに5月までは英日金利差の推移と高い相関関係が続いてきました(図表2参照)。英日金利差の英ポンド優位が大きく拡大し、それに連動する形で英ポンド/円の上昇が広がってきたということは、まさに今年の英ポンド/円がここまでよく動いてきたことの主因が、コロナ後の日本と英国の景気回復の差であることを示しているといえそうです。
【図表2】英ポンド/円と金利差 (2021年1月~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
ただ少し気になるのは、最近にかけて英ポンド/円と金利差の間にかい離が目立ち始めたこと。これは、英ポンド/円の上昇がやや先走り過ぎで、先々反動で下落するリスクがあることを示している可能性があります。
そもそも、英ポンド/円は、今年に限らず金利差との相関性が高い状況が続いてきました。たとえば、2016年にいわゆる「Brexit(英国のEU離脱)ショック」が起こりましたが、それ以降の英ポンド/円の動きもおおむね金利差で説明できる状況が続いてきました(図表3参照)。昨年、いわゆる「コロナ・ショック」や、一連のBrexit問題の最終関門のような位置付けとなった「合意なき離脱」を巡る動きから一時的に金利差からかい離した動きこそが、むしろ例外だったといえそうなのです。
【図表3】英ポンド/円と金利差 (2016年~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
繰り返しになりますが、英ポンド/円は基本的に金利差次第という側面が強い通貨ペアです。コロナ後の日英の景気回復の差を背景に、英ポンド優位方向に金利差が拡大したことが、今年に入ってからの英ポンド高・円安方向の動きのきっかけになったということでしょう。
一方で、6月に入った頃から、そんな金利差から見て英ポンド/円が「上がり過ぎ」気味になっている点は少し気になるところ。そしてそれに加えて、「買われ過ぎ」気味の状況が続いていることも、英ポンド/円の上昇がこの先一筋縄ではいかなくなる要因の一つかもしれません。
たとえば、ヘッジファンドなどの取引を反映しているCFTC統計の投機筋の英ポンド・ポジションは、2月末頃から3万枚前後の買い越しが続いています(図表4参照)。経験的には、買い越しが3万枚を超えてくると、「買われ過ぎ」警戒域といえそうです。
【図表4】CFTC統計の投機筋の英ポンド・ポジション (2010年~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
英ポンド/円「上がる理由」「下がるリスク」のまとめ
- ✓ 英ポンド/円は、今年に入り主要通貨ペア中最も高い変動率でした。一方、同じ英ポンドでも英ポンド/米ドルの変動率は5%台で、英ポンド/円の約半分程度。この要因は日本と英国のコロナ後景気回復の差を背景に英日金利差が英ポンド優位の方向に拡大してきた点が大きそうです。
- ✓ 6月に入った頃から、金利差から見て英ポンド/円が「上がり過ぎ」気味になっている点には注意が必要。ヘッジファンドなどの取引を反映しているCFTC統計の投機筋の英ポンド・ポジションは、2月末頃から3万枚前後の買い越しが続いており、今後英ポンド/円に「買われ過ぎ」警戒感が出る可能性もあります。
テクニカルの「チェック・ポイント」
ここまで、英ポンド/円が最近にかけて大きく上昇してきた理由、その一方でこの先の下落リスクについて確認してきました。それらを踏まえた上で、次はテクニカルな点も確認してみましょう。
たとえば、英ポンド/円の52週MA(移動平均線)は6月11日現在で142.5円なので、それを大きく上回って推移していることになります(図表5参照)。これは、経験的には一時的ではなく継続的、つまり上昇トレンドが展開している可能性を示しています。
【図表5】英ポンド/円と52週MA (2000年~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
ただすでに52週MAを一時10%上回るまで英ポンド/円は上昇しました。これまでの実績を見ると、英ポンド/円が52週MAを10%以上上回ったことは少なかっただけに、この先は52週MAを上回る状況が続くにつれて、徐々に「上がり過ぎ」から下落へ転じるリスクへの警戒も意識する必要が出てきそうです(図表6参照)。
【図表6】英ポンド/円の52週MAからの乖離率 (2000年~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)
英ポンド/円 テクニカルの「チェック・ポイントまとめ」
- ✓ 英ポンド/円は、6月半ば時点で52週MA(移動平均線)を大きく上回って推移しています。これは、経験的には一時的ではなく継続的、つまり上昇トレンドが展開している可能性を示しています。
- ✓ 英ポンド/円と52週MAの過去推移を見ると、英ポンド/円が52週MAを10%以上上回ったことは少なく、この先は52週MAを上回る状況が続くにつれて、徐々に「上がり過ぎ」から下落へ転じるリスクへの警戒も意識する必要が出てきそうです。
吉田 恒 プロフィール
マネックス証券株式会社
チーフ・FXコンサルタント 兼 マネックス・ユニバーシティFX学長
吉田 恒
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長などを歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。
機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。
2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。
書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。
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