2017年2月に放送されたテレビ番組「カンブリア宮殿」で特集されたことがきっかけとなり、「カリスマファンドマネージャー」として各種メディアで脚光を浴びているレオス・キャピタルワークスの藤野英人氏。
藤野氏がレオス・キャピタルワークスを起業した理由や「ひふみプラス」の運用哲学、藤野氏の考える現在の日本経済の問題点などについて、独占インタビューを実施しました。インタビューは3回に分けて公開いたします。インタビュー第1弾では藤野氏がレオスを起業した理由などを伺いました。インタビューの聞き手はマネックス・ユニバーシティの益嶋裕です。
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・最高投資責任者。
藤野 英人 氏
1966年、富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。野村、JPモルガン、ゴールドマン・サックスの投資運用会社を経て、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。運用する「ひふみ投信」は4年連続R&I優秀ファンド賞を受賞。JPXアカデミー・フェロー、明治大学商学部では長年講師も務める。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)など多数
聞き手
益嶋 裕
マネックス証券 プロダクト部マネージャー兼マネックス・ユニバーシティ。
早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年4月に新卒第4期生としてマネックス証券に入社。
マーケティング部で日本株や中国株のマーケティングを担当後、2013年7月より現職。現在は米国経済についてのレポート「米国マーケットの最前線」の執筆や各種ウェブコンテンツの作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員。
「カンブリア宮殿」出演の反響
-本日はよろしくお願いいたします。「カンブリア宮殿」にご出演の反響はいかがですか?一層お忙しくなられたのでは?
私自身は普段から300%出し切って仕事をしているので、大きな変化はありません。まあ、303%になったくらいでしょうか(笑)。ただ、会社全体としてはすごく忙しくなりました。
おかげさまで口座開設のお申込みが殺到したり、ひふみ投信のセミナーが連日満席になったりと嬉しい悲鳴をあげつつ社員一丸となって取り組んでいます。会社が浮足立っているような雰囲気はありません。
-番組に出演された理由やきっかけはあったのですか?
今までにもこういったお話はいくつかあったのですが、多くの場合は企画段階で頓挫してしまっていました。その理由の1つは「投資は危ないこと」「投資は悪いこと」というような、投資に対してアレルギーを持っている方が多いということではないかと思います。
番組の中でも言いましたが、私たちの身の回りのものだって誰かがリスクを取って投資を行った結果として存在しています。だから、「投資=悪」ということはありえないと思うんです。
日本人の投資に対するハードルは非常に高くて、投資の知識がないというだけではなく、あえて知ることを避けている「積極的無関心」という方がすごく多い。これは銀行・証券会社・運用会社など業界全体として反省して投資に対するイメージを変えていかなければいけない。そのきっかけの1つになれば、というのも出演を決めた理由の1つですね。
レオス・キャピタルワークスを起業した理由や想い
これまでのキャリアについて
-藤野さんはこれまでどのようなキャリアを歩んできたのですか?
元々私は検察官を志望していました。「悪いことをしている人たちを許せない」みたいな正義感があって、それは今でも根っこの部分で変わっていないと思います。ただ、大学在学中に司法試験に合格することができませんでした。それで腰掛けのつもりだったのですが、一旦就職して仕事に就きながら勉強しようと。どの業界にしようかなと考えたときに、大学の先生のアドバイスもあってその後のキャリアにつながりそうで、お金にも詳しくなれる金融業界の運用会社に就職しました。
そして配属されたのが中小型株の運用を行う部門でした。すると毎日のように企業の経営者とお会いすることになりました。当時の経営者は見た目や言動が荒々しいというか、お世辞にもスマートとは言えないような方が多く、はじめはすごくイヤでした。ところが、多くの方にお会いするうちに「あっ、この生々しい世界が本当の経済なんだな」と思うようになり、そういう方々のことをどんどん好きになりました。そして仕事にのめり込んでいった。いつの間にか司法試験のことなんかすっかり忘れていましたね(笑)。
-その後カリスマファンドマネージャーとして名を馳せていかれるわけですが、レオス・キャピタルワークスを創業した経緯を教えてください。
たくさんの経営者にお会いしたこともあって、起業家精神みたいなものが植えつけられていたので、だんだんと「いつかは起業したい」と思うようになりました。一方で、私が問題意識として持っていたのが、「日本にはあまり良い投資信託がない」ということ。
その状況は今でも変わっていなくて、我々が調べたところ、日本にあるアクティブ型の投資信託約3,500本のうち、5年前に比べて純資産が増加している投資信託が17本しかなかったというデータがありました。日本では組成するときだけ一生懸命で、その後の運用や情報開示をしっかりと行っている投資信託が少ないんじゃないかと。これは今でもそういう状態ではないかと思います。
投資信託の純資産が減っていくということは、投資している企業を応援する資金が減っていくということに繋がります。本来長期的に企業を応援するはずの資金がだんだん減っていくのは健全とは言えません。「起業したい」という思いと「理想の投資信託を作りたい」という思いが重なって、レオスを創業しました。
リーマン・ショックについて
-「ひふみ投信」の販売を開始されたのがリーマン・ショックの最中である2008年ですが、大きな苦労をされたのではないですか?
やはり、非常に大変でした。2003年にレオスを創業してしばらくは投資顧問業として年金運用などに携わっていました。満を持して2008年からひふみ投信の販売を始めたのですが、そこで起きたのがリーマン・ショックでした。 リーマン・ショックというのは、実は運用を行うにあたって「最高」と「最悪」の2つの要素がありました。「最高」なのは、マーケットがどん底なので、投資を始めるには最高のタイミングだったこと。一方で「最悪」だったのは、お金が一番集まらない時期だったということです。
投信というのは装置産業という側面があって、人的にもその他の意味でも投資を増やしたことで、コストが大きく増加していたタイミングでした。そのときに運用残高が急速に減少していくわけですから、運用残高から一定のフィー(費用)をいただく我々にとっては急に売上が大きく減ったというわけですね。コストは増えているのに売り上げは大きく減ってしまい会社は立ち行かなくなってしまいました。
実はリーマン・ショック前には上場しようかなという話もあって、自分の持ち株は21億円くらいの価値がありました。それが急にほぼ無価値になりました。友人から2000万円借りて会社の運転資金に回したりしたけど、焼け石に水。急に資産家から2000万円の借金持ちに変わってしまいました。実はその年は厄年で、大殺界でした。そういうのって当たるんだな、厄払いしておけばよかったなと後悔しました(笑)。
-壮絶なご経験をされていますね。どのようにして苦境から立ち直られたのですか?
今の親会社に株を買ってもらって難を逃れたわけですが、私の経営権がなくなっていち社員になり、実はやる気のほとんどを失ってしまいました。ほとんどというのが、少しは残っていたということなのですが。
実は、自分の中では会社をやめて次のチャンスを捕まえにいこうという気持ちが固まっていました。借金はあるけど、今までの経験や人脈は残っていたので新しくビジネスを興したいと。
ただ、2008年に私が誘ってレオスに来てもらった現取締役の白水美樹には仁義を切りたいと思って、99.9%ただの報告のつもりで彼女をランチに誘いました。
その場で白水に話をすると、彼女からこう切り出されました。
「藤野さん、理想の投信を作りたいからレオスを作ったんですよね。理想の投信は作れたんですか?それともそれは嘘で、お金のためだったんですか?本当にとことんやりきったと言えるんですか?」
白水から言われたことがガツンと響きました。権限や役職がなくなっていち社員になってしまったけど、理想の投信を作るというところにまだとことん努力はしていないな、もう一度挑戦してみようと開き直ることができました。
今振り返って思うのは、人って開き直ると本当に強いなと。自分の中で凄まじい執念や力が湧いてきました。改めて理想の投信を作ろうというところに集中することができるようになりました。
-素晴らしい同僚をお持ちだったんですね。藤野さんにとって理想の投信とは?
(1)高すぎない適切なコスト(2)お客様のために良い成績をあげ続ける(3)情報開示をしっかりと行うという3つだと思います。
カンブリア宮殿に出演した後に嬉しかったのは、番組を見た方から悪口を言われることが全然なかったことです。理想の投信づくりのために普段からたくさんの企業を訪問して経営者に話を聞いていることなど、1つ1つ努力を積み重ねてきたことを知っている方が多いので、あの番組で藤野が言っていることは嘘だというような声が全くなかった。日頃からの努力の積み重ねが信頼を築くのだなということを改めて実感しました。
藤野氏が運用責任者を務めるひふみプラスのご紹介
ひふみプラス
<ファンドの特長>
国内外の上場株式を主要な投資対象とし、市場価値が割安と考えられる銘柄を選別して長期的に投資します。株式の組入比率を柔軟に変化させて運用します。運用はファミリーファンド方式により、マザーファンドを通じて行ないます。
詳細・お申込みはこちらから
(出所)ひふみプラス 月次運用レポート2017年5月度より