新聞などで「ESG」や「SDGs」といった言葉を目にすることが増えてきました。
本コンテンツでは、投資を考える上でどのように関係しているのか、といった視点でこのテーマを解説いたします。
前回ESG投資のポイントは、「将来発生する可能性のある事業リスクや事業成長機会を先取りして察知することで、中長期的な成長が見込まれる業界やマネジメント力の高い企業への投資配分を増やす手法」だと説明しました。今回は、機関投資家がすでに採用している3つの戦略を紹介していきましょう。
1. 地球温暖化の観点
低炭素戦略とは
現在、採用する機関投資家が急増しているのが低炭素戦略です。これは、地球温暖化の観点で規制や風当たりが厳しくなるエネルギー業界や、同業他社よりも二酸化炭素排出量が大きく今後対応が迫られる企業への投資割合を縮小させる戦略です。とりわけ石炭関連銘柄が除外される傾向にあります。
機関投資家の採用実績
世界の大手機関投資家であるカリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)、ニューヨーク州退職年金基金、仏公的年金基金FRAFP、スウェーデン公的年金基金AP2やAP4等がこの戦略を一部採用済みです。運用会社でも、ブラックロックが「iShares MSCI ACWI Low Carbon Target ETF」というETFを設定しています。
2. プライバシー保護の観点
企業の個人情報保護体制も、評価対象に
IT業界や金融業界への投資では、プライバシー問題が大きな投資判断材料になってきています。記憶にあたらしいところでは、今年3月にフェイスブックのプライバシー情報流出問題が明るみに出た後、スウェーデン運用大手ノルデア・アセット・マネジメントや、米ドミニ・インパクト・インベストメントは、運用ファンドで保有している全フェイスブック株を売却しました。フェイスブックユーザーだけでなく、広告主にも状況が懸念され、対策コスト等もかさむと考えられたためです。最近では、流出事件発生前にリスク管理ができるよう企業の個人情報保護体制を詳細に吟味する機関投資家が増えてきています。
3.課題への対応に関する総合的な観点
ESGを定量評価して重点投資するETFの登場
地球温暖化やプライバシーといった個別の問題だけでなく、様々な課題に対する企業対応を総合的に判断するファンドも人気を集めています。
米運用大手ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは今年6月、米大型株を対象とした新たなETF「JUST」を設定。企業の社会・環境・ガバナンス(ESG)を定量評価した上でスコアの高い企業に重点的に投資するファンドです。このETFは、上場初日出来高が歴代10位以内に入る約280億円を記録し、大盛況となりました。
欧米ではこのような戦略を用いた投資信託やETFがすでに数多く登場しています。日本でも今後、類似のファンドが登場してくる見込みです。
本コンテンツの執筆者
株式会社ニューラル 代表取締役CEO
夫馬 賢治 氏
東京大学卒。米サンダーバード国際経営大学院MBA修了。米ハーバード大学大学院サステナビリティ専攻課程在籍。
サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。国連責任投資原則(PRI)署名機関。環境省バックアップの「21世紀金融行動原則」のメディア協力企業。サステナビリティ経営、ESG投資、気候変動金融リスクに関する講演多数。日本経済新聞や毎日新聞、経済誌へコメント寄稿。