英国(イギリス)のEU離脱(ブレグジット)問題について、今後のポイントをロンドンを拠点に活躍する元ディーラーであり、個人トレーダーでもある松崎美子氏に寄稿いただきました。
みなさまの今後のご投資に、ぜひご役立てください。
※本記事は、筆者が2019年10月21日時点の情報を元に執筆したものに、マネックス証券が直近の情報を加筆。
過去の特集一覧
掲載日:2019年9月27日 離脱間近!?ブレグジットと通貨の動きをおさらい
Brexitを巡る英議会での攻防、今週が山場か?
松崎 美子(まつざき よしこ)氏
スイス銀行東京支店でディーラーアシスタントとして入行する。その後、結婚のため渡英。ロンドンを拠点に、バークレイズ銀行本店ディーリングルームに勤務し、日本人初のFXオプション・セールスとなる。1997年に米投資銀行メリルリンチ・ロンドン支店でFXオプション・セールスを務め、2000年に退職。その後、個人投資家として為替と株式指数の取引を自宅からスタートしながら、2007年春にブログ『ロンドンFX』や、FX会社のコラムや動画配信、セミナーなどを通じて、日本の個人投資家に向けて欧州直送の情報を発信している。2017年よりYouTuberとして「ロンドンFXチャンネル」で動画情報配信を開始。2018年にはオンラインサロン「FXの流儀」をスタート。著書に「松崎美子のロンドンFX」「ずっと稼げるロンドンFX」(ともに自由国民社)
直近の動き
ボリス・ジョンソン首相(以下、ボリス)は先週、10月17日、18日のEUサミットで英国のEU離脱が合意となれば、19日(土曜日)に議会を緊急招集すると発表。その後......。
10/17 | 英国とEUは修正離脱協定案の合意にいたったと発表。この離脱協定案を英議会が承認できるかが最大の障壁となった。ブレグジットは延期せず当初予定通り10/31の離脱へ一気に近づいた。 |
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10/19 | 英下院は離脱案について、関連法案が成立するまで採決を見送りとする動議を可決。メインイベントであった「EU離脱協定案」の本採決(※1)はキャンセルされた。 ボリスはEU離脱延期法案に基づき、離脱延期を要請する書面をEUに送付。しかし、同時にボリスは10/31以降の延期を望まない旨を示した署名入りの書簡も送付している。 |
10/22 | 英下院は、EU離脱協定関連法案を3日間で審議するため(※2)の動議を反対多数で否決。これにより、ボリスが目指す10/31付での離脱はほぼ不可能となり、政局の行方に注目が集まっている。 |
※1 Meaningful Vote(MV、本採決)とは?
普通の採決より「重要度が高く」、ここで離脱協定案が可決されると、批准作業に移れる最も重要な採決。メイ元首相の時には、合計3回のMVが実施され、すべて否決された。MVを実施するためには、いくつものハードルをくぐり抜けないとできない仕組みとなっている。特に、同じ内容の案を短期間で繰り返しMVできない。言葉を変えれば、MVにかける案の内容を変更し、ある程度の時間をおいて、再度MVすることが理想的。MVによる採決が可能か不可能かの決定権は、議長が保有している。
※2 EU離脱協定法案の審議
マーストリヒト条約に匹敵する正式な「EU離脱条約」作成に移るために必要なMeaningful Vote(MV)とは別に、英国がEUから離脱することを英国の法律に明記するために必要なものが離脱協定法案(以下、協定法案)である。
MVと決定的に違う点は、法案であるため、英国議会の上下両院の間を行ったり来たりする間に、新たなBrexit関連修正案が追加されるリスクがある。
念のために確認したが、英国の国会図書館がまとめた「Brexitに向けた議会の手引き」によると、英国がEUから正式に離脱するために、MVと協定法案両方の可決が必要となるそうだ。
今後の投資材料の整理
まず、ポジションを持つにしても、利が乗れば即利食うことを勧める。当然、損切りは忘れずに置いて欲しい。
今後の戦略としては、まずマーケットにどの材料が織り込まれているのか?それを各自、はっきりさせることであろう。
以下は、私自身が作成した織り込み済み材料のリストである。
織り込み済み材料
- EUサミットで、EU離脱協定案合意
- 政府のデフォルト姿勢は「10月31日に、英国はEUから離脱する」
- EU離脱延期法案可決、それを強化するレトウィン卿修正案も可決
- ボリスは、嫌々ながらEUへ交渉延長要請済み
- 財務相は、景気減速時に財政拡大
- 英中銀は、合意なき離脱となれば、追加緩和示唆
- 英中銀は、条件付き離脱となれば、引き締め示唆
- カーニー総裁任期延長予定
- 条件付き離脱となっても、リセッションリスクあり?
- 合意なき離脱となれば、食料品や薬品が入手できない?
- 合意なき離脱後の物価高リスク
織り込まれていない買い材料
- EUが交渉期間延長を認める(延長期間は、不明)
- 「残留」が含まれる2度めの国民投票実施が決定
- EU基本条約50条の破棄
- 残留支持内閣誕生 → コービン首相だとポンド買いは短命
織り込まれていない売り材料
- 英国連合王国の崩壊(スコットランド独立、南北アイルランド統一)
- 合意なき離脱に決定
- ベルファスト合意が脅かされる(新たな武力行使)
- 施政方針演説内容が議会で否決
- Q2、Q3と極端なマイナス成長となり、リセッション確定
- カーニー総裁の後任者が、コテコテの緩和主義者
- 財政/金融ともに緩和状態が長期化 或いは加速
- 英国の格下げ
今後の注目ポイント
これは、私が先週作成したフローチャートである。現在の進行状況をピンクのラインで追っているが、EUが延長を認めてくれれば、解散総選挙実は早ければ、来月に実施されるだろう。
(出所:各種資料より講師作成)
注目ポイント1 : 解散総選挙
解散総選挙の実施は、「もし」ではなく、「いつ」という認識で良いだろう。その理由は、ボリスが21名の保守党議員を除名処分したため、現在の保守党の議席数は、(定数650に対して)288議席となっており、一刻も早く選挙をして議席を増やさなければ、今後の政策運営に大きな支障が生じる。
実際、9月にボリスは2度にわたり、早期解散総選挙実施動議を提出したが、議会は2度とも否決した。
この否決は、決して野党が解散総選挙を望んでいないという意味ではない。逆に、労働党は賛成している。しかし、この時は、ボリスが選挙キャンペーンのどさくさに紛れ、10月31日に合意なき離脱を断行するリスクがあまりにも高かったため、敢えて反対票を投じたという訳である。
ポンド円予想
解散総選挙により、保守党が過半数を超える議席を確保するという予想が高いため、本来であれば政策運営の安定を好感して、ポンド買いのシナリオとなるはずだ。
しかし、野党連合も黙って指をくわえて見ているわけではない。彼らがやろうとしていることは、2017年6月の総選挙で、第1党の保守党議員と、第2党の野党議員との投票数差が400〜1,000票以内の選挙区を全て洗い出し、それらの選挙区では、残留支持の統一候補を立てて、保守党議員と一騎打ちさせる戦略に出るようだ。
そのため、今までのように、解散総選挙でポンド買いというシナリオには、慎重にならざるを得ない。
注目ポイント2 : 2度目の国民投票
これが実現したら、ポンド円は(若干の時間はかかるだろうが)5円は上昇すると考えている。
通常、国民投票の鉄則としては、2択、結果は50/50となるのだが、2度目の国民投票では、「EU離脱協定法案で離脱/ 合意なき離脱 / 残留」の3択となるらしい。
最近、英国の有権者はBrexitに対し、どういう考えを持っているのか?調査調査大手:YouGov社が行った「残留/離脱支持」の調査結果をご紹介しよう。同社が2016年後半から今年後半までに実施したBrexit調査回数は、合計300回。その結果をグラフにしたものが、これである。
黄色 = 残留>離脱
青 = 離脱>残留
緑 = 残留と離脱、同数
(出所:各種資料より講師作成)
つまり、2018年あたりから、英国では残留を支持する人が増えてきている。そのため、もし2度目の国民投票実施となれば、かなり高い確率で「残留」となる予想が高まってきている。
ポンド円予想
2016年6月の国民投票で離脱となったが、新たな投票で残留という結果となれば、離脱支持者による暴動が起きることは避けられない。
しかしそれを差し引いても、残留となれば、世界最大の不安要因の1つが消えることを意味し、ポンド高を演じると予想する。上述のとおり、その時のポンド円がどのレベルであろうが、初動で5円程度のポンド高を演じ、その後もう一段のポンド高を予想する。
注目ポイント3 : EU条約50条の破棄
正直を言うと、これが実現するとは、考えていない。しかし、解散総選挙で自民党が予想以上に善戦し、(絶対にないとは思うが)第1党となった場合、この可能性が一気に浮上する。
自民党は残留支持政党。そして、最近の党首交代により、それまでの「2度目の国民投票支持政党」から、突如として「EU50条の破棄」(EU離脱、なかったことに.......)を支持する政党に姿を変えた。彼らの選挙キャンペーンは、「50条の破棄」をメインに展開される。
ポンド円予想
2度目の国民投票以上に、ポンド高材料となる。例えば、これが実現した時のポンド円が140円台であれば、一気に短時間で147/8円くらいまで上昇しても、不思議ではない。
注目ポイント4 : 合意なき離脱
ほぼ可能性としてはゼロに近いが、万が一何かのきっかけで、合意なき離脱となれば、ポンドは急落しよう。
ポンド円予想
直近安値の126円台が最初のターゲットか?
執筆者コメント
いろいろと書いてきたが、今週末には、ある程度の「道筋」が見えてきていることが予想される。今週はかなりボラティリティーが高まることが予想されるため、無理な取引はせずに、小刻みな利食いを心がけていこうと思っている。