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プロが読み解く注目トピック【ブレグジット】

プロが読み解く注目トピック【ブレグジット】

昨年10月に世界の株式市場の株価が大きく下落しました。主要株式市場は当時の株価水準を未だに取り戻せていません。世界を見渡せば、米中貿易戦争やブレグジットによる混乱が続く中、日本では今年、消費税増税を控えるなど、先を見通すことが難しい相場環境が続いています。現在、世界は新たなパラダイムシフトを迎えているのでしょうか。

マネックス証券では、そんな不透明な状況を理解するため、各分野の専門家から特別レポートを寄稿いただき、掲載してまいります。第1回は欧州情勢に詳しい、ニッセイ基礎研究所 主席研究員の伊藤さゆり氏に寄稿いただきました。

プロフェッショナルの見解を、みなさまの今後の投資のご参考等に、ご活用ください。

特集一覧

第1回「ドイツ主導の欧州経済減速とブレグジット」(伊藤さゆり氏 ニッセイ基礎研究所 主席研究員)

第2回「伝統的市場に深く組み込まれる商品市場」(新村直弘氏 株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー、株式会社MRAリサーチ 代表取締役)

第3回「イールド・カーブのニューノーマル(新しい常識)」(長井滋人氏 オックスフォード・エコノミクス在日代表)

第4回「消費増税のインパクト」(土居丈朗氏、慶應義塾大学 経済学部教授)

第5回「仮想通貨の可能性と今後の見通し」(大塚雄介氏、コインチェック株式会社 執行役員)

今後も不定期で、各専門分野の識者にレポートを執筆いただき、掲載してまいります。

ドイツ主導の欧州経済減速とブレグジット

株式会社ニッセイ基礎研究所 主席研究員

伊藤 さゆり 氏

1987年早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)を経て、2001年、ニッセイ基礎研究所に入社。2003年4月より同研究所経済研究部主任研究員、2012年7月から上席研究員、2017年7月から現職。修士(商学・早稲田大学)。2015年度より早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。日本EU学会理事。

世界経済に大きな変化は起きているか?

  • 欧州経済はドイツ主導で減速している。米中貿易摩擦などで輸出環境が悪化、主力産業の自動車は環境規制厳格化もあり勢いが削がれている。
  • ブレグジットの迷走も、欧州経済の重石となっている。どのような形で離脱するにせよ、しないにせよ、不透明感は続く。
  • グローバル化と欧州統合の亀裂は、製造業輸出で「独り勝ち」してきたドイツの試練となっている。

株式などマーケットへの影響はどういうものが考えられるか?

  • 「合意あり離脱」ならポンド高、世界的株高、「合意なき離脱」ならポンド安、世界的株安の反応が予想されるが、いずれも長続きはしない。
  • 「離脱撤回」の場合、不確実性が一気に解消するが、最終的に結論が出るまでの道のりが長い。

現状と変化の見通し

欧州経済の拡大テンポが鈍っている。単一通貨を導入するユーロ圏の実質GDPは18年下半期から年率1%を割り込み、潜在成長率を下回るようになった。1~3月期も、失速こそ免れているが、復調の気配もない。

昨年来の欧州経済の減速の特徴は、これまで「独り勝ち」してきたドイツの製造業がブレーキ役となったことだ。ドイツ経済の規模は欧州で最大だが、製造業と域外輸出への依存度が高い。米中貿易摩擦、中国の景気減速、半導体市場の循環(シリコン・サイクル)の下降局面入りなどで、輸出環境は急速に悪化した。主力産業の自動車は環境規制の厳格化もあり、勢いを削がれている。

迷走が続く英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)も、欧州経済の重石となっている。ブレグジットの影響に関する試算では、英国政府や英中央銀行のイングランド銀行(BOE)、国際通貨基金(IMF)などの国際機関さらに民間のシンクタンクに至るまで、「どのようにEUを離脱し、新たにどのような関係を築くかで変わる」という点は一致する。

「合意なき離脱」なら、離脱による環境の激変を緩和するための「移行期間」がないため最も打撃が大きい。「合意あり離脱」の場合は、移行期間終了後のEUとの新たな関係の緊密さの度合いで影響が変わる。メイ首相の協定案では、関税同盟と単一市場から離脱する将来関係を前提とするが、関税同盟への残留、さらに単一市場にも残留するなど「ソフト化」の度合いが高くなると、経済へのマイナスの影響は小さくなる。ただ、新たにどのような関係を築くにせよ、EUに残留した場合よりも、離脱した方が、経済的にはマイナスという見方が広く共有されている。

ブレグジットの最大の問題は、経済面での影響を決める「どのように離脱するか、どのような関係を築くか、そもそも離脱しないのか」が、当初の期限である3月29日を迎えた今もわからないことにある。EUが3月21日の首脳会議で承認した新たな離脱期限は4月12日。それよりも長い延期は、英国議会が協定を承認した場合か、5月23~26日に予定される欧州議会選挙に英国が参加する場合に限定した。

3月27日、英国議会は、関税同盟残留など「よりソフトな離脱」、「再国民投票」、「離脱撤回」など8つの代替案から、過半数を確保できる選択肢を探る投票を行った。賛成票は離脱案の信認を問う「再国民投票」が最も多く、賛否の票差は「関税同盟残留」が最も小さかったが、いずれの戦略も過半数を得ることはなく、4月1日にさらに戦略を絞り込む投票を行う予定だ。他方、メイ首相は、自らの辞任と引き換えに協定案の支持を求める賭けに出たが、3度目の採決で可決を得る目途は立っていない。離脱戦略のソフト化や離脱撤回を嫌う与党・保守党内の離脱強硬派からは、メイ首相の協定支持に回る動きも出始めているが、閣外協力するアイルランドの地域政党(DUP)は反対の立場を崩していない。結局、離脱戦略も欧州議会選挙への参加も決まらないまま期日が到来、「合意なき離脱」となる可能性も残る。

ブレグジットに関する市場の関心は、目下のところ「EU離脱の時期と有無」に集中しているが、どのような形で離脱するにせよ、しないにせよ、不透明感は解消しないことに注意が必要だ。

「合意あり離脱」なら、最悪のシナリオが回避されたとして、市場は歓迎し、ポンド高、世界的な株高の反応が予想されるが長続きはしないだろう。協定が定める移行期間は20年末までと短い。新たな関係の協議がまとまらないまま、移行期間が終了する「合意なき離脱」リスクは1年余りのうちに意識されることになる。

「合意なき離脱」なら、ポンド安、世界的な株安の反応が予想されるが、金融システム危機に発展し、世界経済に急ブレーキを掛けることはないだろう。EUは、混乱を抑制するための時限的な法的措置を講じる準備をしており、金融機関にも事前の対応を求めてきた。そもそも、英国とEUの関係が、協定なしで固定化することは考え難く、「合意なき離脱」は終着点ではない。

「離脱撤回」の場合、不確実性は一気に解消するが、総選挙や国民投票などの手続きを踏む必要があり、最終的な結論が出るまでの道のりが長い。

ブレグジットの影響は、国別には、英国で最も大きいが、EU主要国では、ドイツが最も大きいと見られている。ドイツのハレ経済研究所(IWH)は、世界産業連関表に基づいて、「合意なき離脱」で英国の輸入が25%減少した場合には、世界全体で61.2万人の雇用に影響が及ぶと試算する。国別にはドイツの10.3万人が最大。ドイツの主力である自動車産業のグローバル・バリュー・チェーンに及ぼす影響が大きいからだ。

グローバル化と欧州統合に生じつつある亀裂は、製造業輸出で「独り勝ち」してきたドイツの試練となっている。

マネックス証券担当者から一言

本特集の第1回目は、今、旬なテーマである「ブレグジット」について伊藤さゆり氏に執筆いただきました。

レポートからもわかるとおり、2017年6月に英国国民投票でEU離脱派が支持されて以降、英国は最終局面に来ており、「合意なき離脱」「合意あり離脱」「離脱撤回」のいずれかの道を進むことになります。
非常に長きに渡ってブレグジットの議論が行われていますが、イギリス国民の中でも「早く決めてくれ」という意見も多いのではないでしょうか。マーケットは不透明感を嫌いますが、何をするにしてもモヤモヤ感が残ると前向きには慣れませんよね。

とはいえ、いよいよ決着がつきそうです。不透明感が払拭されることで、世界中の投資家がポジティブになり明るいマーケットになると良いなと感じています。

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