プロが読み解く注目トピック【商品市場】

プロが読み解く注目トピック【商品市場】

昨年10月に世界の株式市場の株価が大きく下落しました。主要株式市場は当時の株価水準を未だに取り戻せていません。世界を見渡せば、米中貿易戦争やブレグジットによる混乱が続く中、日本では今年、消費税増税を控えるなど、先を見通すことが難しい相場環境が続いています。現在、世界は新たなパラダイムシフトを迎えているのでしょうか。

マネックス証券では、そんな不透明な状況を理解するため、各分野の専門家から特別レポートを寄稿いただき、掲載してまいります。第2回は原油などの商品市場に詳しい、株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー、株式会社MRAリサーチの代表取締役を務める新村直弘氏に寄稿いただきました。

プロフェッショナルの見解を、みなさまの今後の投資のご参考等に、ご活用ください。

特集一覧

第1回 「ドイツ主導の欧州経済減速とブレグジット」(伊藤さゆり氏 ニッセイ基礎研究所 主席研究員)

第2回 「伝統的市場に深く組み込まれる商品市場」(新村直弘氏 株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー、株式会社MRAリサーチ 代表取締役)

今後も不定期で、各専門分野の識者にレポートを執筆いただき、掲載してまいります。

伝統的市場に深く組み込まれる商品市場

執筆者

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー、株式会社MRAリサーチ 代表取締役

新村 直弘 氏

1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。
日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。
国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。その後、バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券に転職。2003年より価格リスクマネジメントに必要な情報を幅広く提供することを目的にアナリスト業務を開始。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。また週刊ダイヤモンドや日経新聞、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。2012年6月、商品市場動向分析を専業とする株式会社MRAリサーチを設立、代表取締役に就任。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員。

著書:『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社) など

「商品市場における大きな変化」

商品市場には比較的大きな変化が起きていると考えられる。しかしこれは今まで想定していなかった変化ではなく、あくまで人口動態の変化に伴うものである。中国の人口動態がピークアウトし、次の構造的な世界景気のけん引役として期待されるインドや中東・西アジア・アフリカ諸国の需要顕在化がまだ起きていない。「構造的な経済成長のドライバーの移行」が進行中であるともいえる。また、後述するが、商品市場における投資銀行の役割変化も相場の振る舞いを変質させた。

しかし、景気が構造的・循環的に減速する中ではどうしても政策動向で「ポピュリズム」が台頭しやすくなり、政策は大衆迎合型になりやすい。これは政治の機能が富の再配分であるため、不況になると負担の再配分となるためだ。その結果、財政出動や金融の過剰な緩和といった政策が世界中に広がり、危機発生時のリスクを高めることになる。結局、今の世界の金融システムは好況時にしか心地よく機能しない、言葉を替えると景気減速時の痛みが今までよりも大きくなりやすい環境にある。

「株式市場と商品市場の関係性」

商品市場から見た場合の株式市場への影響の仕方にも変化がみられる。その市場規模の主従関係から言えば株式市場が主、商品市場が従の関係であり、商品市場動向が株価を変動させるという考え方は因果関係的には成立しなかった。

しかし、特に原油においては、1.期待インフレ率の変化を通じて為替・インフレ系資産価格に影響する、2.原油価格が下落する局面では、主に米国を中心とする中小規模のエネルギー企業の業況が悪化、ハイイールド債市場動向の変化を通じて信用市場、ひいては株式市場に影響を及ぼす、3.同様に原油価格下落局面では産油国政府系ファンドが保有している株の売り圧力が強まる、といった形で影響を及ぼすようになった。ただしこれらが顕在化するのは相場が極端に動いた時であり、普段はあまり意識されない要因である。

しかし、リーマンショック以降、投資銀行が商品市場での取引規模を縮小していることに伴う流動性の低下でボラティリティが上昇、以前よりも値動きが激しくなったため、株式市場はこれを無視できなくなっている。別の言葉を使うと、原油(や工業金属)の需要が増加する中で、昔以上に商品市場の認知度が上がり、今まで以上に深く、既存の伝統的な市場メカニズムの中に組み込まれてしまったため、株式市場も無視できなくなったともいえる。このことが強く意識されたのが2014年11月のOPEC総会で、ムハンマド皇太子の意向を受けて減産が見送りされたことによる、原油価格の急落である。

「投資銀行の役割の変化とボラティリティの上昇」

マーケットメイカーの一翼を担っていた投資銀行が、商品市場での取引規模を縮小していることにより、ボラティリティは上昇している。

リーマンショックの反省から、投資銀行に対して投機的な取引を商品市場で行うことが規制されるようになった。良くも悪くも投資銀行は相場が過熱する中では「やり過ぎる」傾向が強い。また、2010年にBPのメキシコ湾での原油流出事故も投資銀行に対する商品取引、特に現物取引への規制強化につながった。これは原油流出事故という、「金融当局が監視しきれない商品現物に関わるリスクが顕在化し、金融機関の経営不安を通じて金融システムが混乱するリスクを予見できない」という背景があったと考えられる。

しかしこの結果、市場価格形成の一翼を担っていた金融機関が市場から退場、ないしはその規模を縮小することとなり、値動きは期待と裏腹に激しくなった。中国の需要が爆発した2000年以降の原油価格のボラティリティのトレンドを見てみると、リーマンショック前後を除けばこの期間のボラティリティは実はずっと低下基調にあった。この時期は、商品市場での投資銀行のプレゼンスが上がっていた時期に重なる。しかし、その後の投機取引の規制に関わらず、2013年以降のボラティリティは上昇している。これは自身の相場見通し、というよりも実需の需給バランスの変化によって発生するトレンドに相乗りする、トレンドフォロー型のファンド取引が中心になったことによると考えられ、高速取引が普及した影響も無視できない。金融機関の商品市場での取引規模縮小が続く場合、商品市場の価格変動性が高い状態が続くことが予想される。

なお、投資銀行を含む投機目的の市場参加者の振る舞いが変わったが、あくまで原油価格の方向性を決定しているのはやはり実需の動向である。例えばWTIの投機取引の総建玉に占めるシェアは2016年に38.4%と、2000年以降の最高水準まで上昇した。しかしそれ以降は低下しており、原稿執筆時点では25%程度だ。2000年以降のWTI市場における投機取引のシェア平均は22.7%、規制が強化され始めた2013年以降で見てみても30.2%程度であり、全ての取引量に占めるシェアはさほど高くない。投機筋の動向は価格動向を占う上で重要な要因の1つであるが、やはり実需主体で価格が決まっていると考えるのが妥当だろう。

「人口動態の変化」

上流に近い商品の需要動向(ひいては価格動向)は、やはり人口動態に左右されやすい。多くの製造業が海外に出店するときにその地域の人口動態を分析し、将来的に需要が増加しそうな国に出店するのはまさにその国の「モノ」の需要が人口構成に依拠することを知っているからだ。かのピーター・ドラッカーも「人口動態を見ることで、すでに起こっている未来を予見することができる」としている。弊社も商品需要の構造的な増減を占う場合に人口動態を多用しているが、国連発表の人口データを基にした分析だと、中国のいわゆる「人口ボーナス指数(生産年齢人口比率)」が、商品需要が大幅に増加する閾値とされる2倍を超えたのが1996年、最大になったのが2010年頃であり、その後は経済活動が鈍化、商品需要の伸びも鈍化すると見ていたが概ねそのようになっている。この影響は特に中国の消費シェアが大きい工業金属に顕著に表れた(ただし胡錦涛政権の4兆元経済対策によって、「自然な価格調整」は失われてしまったが)。中国の人口ボーナス期は2032年に終了するとみられるため、それまでは多くの商品需要は、「増加ペース」は鈍化するものの増加を続けるだろう。

ちなみに日本の人口ボーナス期入りは 1964年、ピークが1992年、人口ボーナス期の終了が2005年だ。1964年は池田内閣が所得倍増計画を実施している時期に当たるが、計画以上の成長となったのは時節に合った政策がとられていたため、といえるだろう。1992年がピークであるが、株バブル・不動産バブルが崩壊した時期に重なることも見逃せない。では今後はどうか。2020年頃からは恐らくインドが構造的な需要増加局面に入ると予想され、エネルギーや工業金属価格の動向に大きな影響を及ぼすようになると考えている。ただし、その国の「潜在需要」を「顕在需要」にするには適切な政策が遂行されることが重要であり、インドの政権運営次第のところも否めない。

現在、インドはパキスタンとの対立が焦点となっている。今まで比較的無難にインドの政策を運営してきたモディ政権が春に行われる選挙で敗北した場合、能力が未知数の時期政権がこの人口ボーナス期入りのタイミングを十分に活かせるかどうかは重要なポイントになるだろう。これはインドに限ったことではなく、今後人口ボーナス期入りする国を多数抱える中東・西アジア諸国でも同じことである。

マネックス証券担当者から一言

近年のマーケットを見ていて、商品、主に原油が株式市場の価格形成に影響を与える、ということは何となく気づいていたものの、新村氏の説明でその理由がはっきりと理解できました。マーケットメーカーとしての投資銀行の役割が変わってきたというのも、なかなか普段のニュースでは捉えられない情報でした。
企業の株価は、企業のファンダメンタルズだけではなく、マーケットの雰囲気(リスクオン、リスクオフ)や需給によっても変化していきます。それらに影響を与える商品の重要性は、株式投資家にとって認識しておきたいポイントですね。
また株式投資を考える上で、原油の価格動向への注目も必要ですし、人口が急増していくアジア諸国の動向にも長期的には注視しておく必要があるかもしれません。

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