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「健康脳」の維持と認知症予防のポイント

2022年9月20日に開催し好評を博したオンラインセミナー『「健康脳」の維持と認知症予防』の講師を務めていただいた、東北大学加齢医学研究所の瀧教授に、セミナーの中から脳の健康を保ち認知症リスクを下げるためのポイントをピックアップしていただきました。

また、2023年9月14日に開催したオンラインセミナー「脳の健康維持と大人の学習法」より、大人の学習法と、講師への質問を本コンテンツに追加しましたので、ぜひご覧ください。

講師紹介

瀧 靖之氏の写真

東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長
東北大学加齢医学研究所教授
東北大学発スタートアップ 株式会社CogSmart代表取締役
医師 医学博士

瀧 靖之氏

東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ約16万人に上る。
「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表している。

著書は、「生涯健康脳(ソレイユ出版)」「賢い子に育てる究極のコツ(文響社)」「回想脳(青春出版社)」「脳医学の先生、頭が良くなる科学的な方法を教えて下さい(日経BP)」始め多数、特に「生涯健康脳」「賢い子に育てる究極のコツ」は共に10万部を突破するベストセラーとなり、海外でも複数カ国語で翻訳本が出版されている。
テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、NHK「NHKスペシャル」、NHK「あさイチ」、TBS「駆け込みドクター!」など、メディア出演も多数。

脳を健康に保ち認知症のリスクを下げるためのポイント

どれだけ健康であっても、加齢とともに脳は萎縮していきます。脳が萎縮すると、考えたり判断をしたり記憶をする、いわゆる高次認知機能が下がることが分かっています。
つまり、脳の萎縮をおさえることが、脳を健康に保ち、認知症のリスクを下げるポイントとなります。
加齢により脳が萎縮するのは仕方ないとしても、できれば遅らせたいですよね。また、加齢以外でも脳が萎縮する要因があります。先ずは、脳の加齢の増悪要因を知り、できるだけ避けていきましょう。そして、効果的と言われていることに取り組んでいきましょう。

脳の加齢の増悪要因

脳萎縮の原因

飲酒

  • 飲める人は控えめに
  • 飲めない人は無理に飲まない

喫煙

  • 悪性腫瘍のリスクを高める
  • 認知症リスクを約1.6倍に高めるという報告もあり

肥満

  • 中年期の肥満は高齢期の認知症リスクを高める
  • 男性に多い内臓脂肪型(おなかがポッコリ出ている)は非常によくない

その他にも、健康にとって重要なリスクである動脈硬化や糖尿病は、認知症のリスクを高めることが分かっています。

脳の健康維持や認知症予防に重要な要因

信憑性があり科学的に確度が高いものをご説明します。

特に信憑性の高いもの

1.運動

運動することで、脳の「海馬」と呼ばれる記憶に関わる部分の機能が高まり、記憶がより保たれることがわかっています。早歩きや、エスカレーターではなく階段を使うなど、無理のない運動を習慣化していきましょう。

  • 有酸素運動
    1年間有酸素運動を続けた結果、海馬の体積が2%増加。
  • ストレス反応を鎮める
    ストレスやイライラ、不安などの感情に係る偏桃体と呼ばれる領域の活動をおさえる。
  • 息が少し弾む程度の運動
    早歩きなど心拍増加を気付く程度の運動が有効かつ「習慣化」が大事。ただし、無理をしすぎない。

2.趣味、好奇心

趣味や知的好奇心を持ち続けることも非常に重要です。知的好奇心レベルが強いと、認知機能を担う脳領域の萎縮が抑えられることがわかっています。

  • 趣味(読書、楽器演奏など)
    読書や楽器演奏などを習慣的に行っている方は、認知症リスクが減少。
  • 知的好奇心
    物事に興味を持つ気持ちが強ければ強いほど、脳の加齢性の変化をおさえられる。楽しく覚えたことは嫌々覚えたことより記憶に残りやすい。
  • 何かを始めるのに遅すぎることはない
    例えば、ピアノは、70歳、80歳からでも時間はかかるが習得可能。どれだけ加齢が進んでも余暇活動への参加度が高い人ほど、認知機能の低下が少ない。
  • 新たなことは習慣化
    新しい行動を始めるときは、意思の強さではなくコツが大事。構えて取り組むのではなく、単純な行動を繰り返すことで行動を習慣化させることが大事。

3.会話・社会との関わり

会話や社会とのつながりは非常に大事です。コミュニケーションは、感情認知、言語、共感性、社会性に関わる脳の多くの領域を駆使するため、その機会が多いほど認知症リスクは低くなります。会話はビデオチャットでも有効です。

  • 社会性
    健常な高齢者で社交性が高い群は認知機能がより保たれ、社会的な孤立は認知症リスクが高くなる。
  • できるだけ生涯現役で
    健康な高齢者において、退職時年齢が1歳高いほど、死亡のリスクが11%低下。
    退職年齢が高いほど、認知的・社会的刺激を高いレベルで維持、認知症リスクが低減。
  • 人とのつながり
    仕事を続ける以外でも、趣味のサークルに入る、ボランティア活動を行うなど人のつながりを持つことが大事。

信憑性の高いもの

4.食事

地中海食や和食が有用、バランスも大切。

  • 品目の多さも脳の健康に重要
    食事は個々の成分よりも食事のスタイルやバランスが重要。
    肉類よりは魚介類・野菜や果物など、いわゆる地中海食や和食が有用で品目の多さも海馬の機能維持に重要。

5.睡眠

睡眠も認知機能力維持に有効。7時間程度の十分な睡眠を心がけましょう。

  • 記憶の固定
    睡眠は疲れをとる以外にも、記憶の固定化のために大切。
    十分でないと、新たに獲得した情報の処理や記憶の長期保存ができなくなる。
  • 脳内老廃物の洗い出し
    十分な睡眠により、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβなど、神経毒性のある老廃物が洗い出される。
  • 寝不足も寝すぎもあまりよくない
    6~8時間程度の睡眠が最も認知症リスクを下げる。

6.幸福感

主観的幸福感や回想、瞑想も有用。幸せと感じている人は、不幸と感じている人よりも長生きすると推定されています。

  • 主観的幸福感が高いと認知症リスクが下がる。
    人とのつながりを重視するほど、人生満足度は高まるので、社交性が高く、社会とつながりが高い人は主観的幸福感が高い。
    ボランティア活動など人のために行動をしている人は、していない人より健康状態も良い。
  • 回想・瞑想の有用性
    好きだったことや、ものを思い出すなど過去の回想は、幸福感を高める。
    瞑想は記憶、言語の流暢さ、認知の柔軟性を改善し、認知機能維持に有用。

脳を健康に保ち認知症のリスクを下げるために取り組みたいこと

ここまでの説明をまとめると、運動習慣を持ち、趣味も持ち、できるだけ人とコミュニケーションをとって、生涯現役であることをこころがける。そして、食事はカロリー控えめの魚介類・野菜果物中心に取ること。十分な睡眠をとり、ささやかでも日々の幸せを感じること。一方で、飲酒や喫煙、肥満を出来るだけ避けること。
脳の健康を維持するために大事なポイントは以上です。
しかし、全てを意識して実行するのは難しいでしょう。
今日からすべてに取り組んでくださいとは言いません。この中の一つでもいいので、無理のない範囲で習慣化に取り組んでいただき、取り組みを少しずつでも増やしていただければと思います。

「大人の学習法」長い人生を楽しむには学びなおしが大事

人生100年時代、情報量も昔と比較にならないほど多くなり、以前学んだものも陳腐化しているのではないでしょうか。長い人生をより楽しむためには学び直しも大切です。
ここでは、高齢になってからでも効果的な「大人の学習法」について紹介します。

ポモドーロ法で効率を上げる

ポモドーロ法とは、25分の作業と短い休息で時間を区切り時間管理する方法です。
集中力を高め効率よい学習(作業)ができ、記憶を固定する効果があると言われています。

ポモドーロ法

  1. まずは勉強や仕事場所で気の散りそうなものを排除する。特にスマホやタブレッドなどは目の届かない場所へ。
  2. タイマーを25分に設定。25分より多少の長短は問題ないが、必ず休憩を入れることが重要。
  3. 25分徹底して勉強や仕事に没入。
  4. 25分が終わったら5分程度の短い休憩を取る。音楽を聴いたり体を動かすなど、休憩を楽しむことが効果的。
  5. 1~4を繰り返し行うことで効率的に学習(作業)することができる。

記憶は忘却するもの 想起をしながらの学習や多様性学習が効果的

記憶は時間とともに忘却するものです。およそ1~10日程度で学んだことの半分程度の記憶を忘却すると言われていますが、これはごく普通のことであるため、学習は何度も繰り返すことが重要と言えます。
常に記憶を想起しながら学習することで、以前に覚えた記憶をさらに強固にし、単なる暗記だけではなく、意味のある長期的な学習を生み出すと言われています。

そして、丸暗記というのは非常に難しいので工夫が必要です。
語呂合わせや頭文字をつなげるなど、何かと結び付けることで覚える対連合記憶を使うといいと言われています。

また、特定の種類の問題ごとに学ぶブロック学習よりも、種類の違う様々な問題を織り交ぜて学ぶ「多様性学習」のほうが効果的と言われています。試験に例えると、日ごとに科目を変えて勉強するよりも、1日の中で複数の科目にわけて勉強することのほうが有効であると言われています。

お客様よりいただいた認知症に関するご質問への回答を公開

ここでは、2023年9月14日に開催したオンラインセミナー「脳の健康維持と大人の学習法」にて、お客様より頂戴したご質問と講師の回答を紹介します。

年相応の脳の萎縮があると言われました。脳の萎縮と認知症は関係がありますか。

加齢とともに脳は萎縮するので、年相応のものであれば、認知症については問題ないと思われます。

日々の生活の中で、継続して精神的な緊張感やストレスがある場合、認知症の進行に影響がありますか。

ストレスや緊張感は、脳だけでなく、体にもよくありません。動脈硬化のリスクや、主観的幸福感が下がるといったことにつながりますので、ひどいストレスやうつ病などになってしまうと認知症発症リスクは高まります。
ただ、ある程度のストレスは現代社会において避けられないものですから、ストレス解消に有効な適度な運動を行いましょう。健康脳の維持のためにも有効です。

認知症は遺伝すると聞いたことがあります。遺伝する場合、遺伝的要素と後天的要素では、どちらが大きいのでしょうか。

認知症に限らず、多くの疾患は遺伝と生活習慣の相互作用で起こり得ます。認知症発症は、遺伝要因も多少はあるものの生活習慣が影響することが分かっています。生活習慣をしっかり整えることが有用です。

親が認知症で日時もわからなくなってきています。夜起きて「おはよう」と言ってくることがあるのですが、「もう夜だよ」と訂正するべきでしょうか。それとも母に合わせたほうがいいのでしょうか。

どちらでもよいです。最も大切なことは、あたたかいコミニュケーションを取ることです。怒ったり無視するなどしなければ問題ないと思われます。

自分の認知機能の状態を定期的に確認することは出来ますか。出来たとしても調べて悩みが増えるくらいならやめておいた方がいいでしょうか。

認知心理テストというものがあるので、確認することは可能です。明らかに気になる点が無ければ、必ずしも実施の必要はないと思いますが、今の自分の状態を客観的に知るという意味では行ってもいいし、どちらでもいいです。確認することを気にされるよりも、生活習慣を整えることを気にされた方がいいと思います。

認知症予防や薬について最新の情報を教えてください。

予防については、何か劇的なことや新しいことが見つかったということはなく、セミナーでもお伝えしたこれまで効果的といわれていたことの証拠が多く集まってきているという状況です。
薬については、症状を遅らせるものが出始めており今後もそういったものが出てくる可能性はあります。

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