Ami
2022.8.24

本当に必要なものは何か?
そこに時間もパワーも投資するAmi/ブレイクダンサー

勝ち負けよりも自分が踊りたいダンスを

DJが即興で流す音楽に合わせ、リズミカルに細かい脚さばきで魅せたり、ダイナミックに床に背中や頭をついて回転したり、全身を使ったアクロバティックな動きを取り入れた「ブレイキン」。「ブレイクダンス」のほうが聞き馴染みのある人もいるだろう。1対1、2対2、もしくはクルー単位のバトル形式で戦うのが基本だ。また、「ブレイキン」を踊る人を、Bボーイ・Bガールと呼ぶ。

2024年のパリオリンピックの新競技に追加されたことで、一躍脚光を浴びたこのジャンルで、今、世界トップクラスで戦うBガールが、湯浅亜実(Ami)さん。19歳でデビューして以来、世界選手権など数々の大会で好成績を収めてきた。大事にしているのは、“自分がどう踊りたいか”。

「ブレイキンは他のスポーツとは違い、タイムなどの絶対的な数字で競うものではないからこそ、点数に自分のダンスが左右されないように、常に自分がやりたい表現に軸を置くようにしています」

とはいえ、大会は否が応でも他人と比較された上で、勝ち負けが決まる世界だ。1位の一人を除けば、他の人は全員“負け”という捉え方もできる。

「大きなイベントで活躍すれば次のチャンスに繋がるので、もちろん大会は勝ちに行きます。ただ、一時期あった、負けるのが怖いという感覚はもうないです。トップ4とかトップ8とか、勝ち負けだけでいえば“負け”の人の中にも、すごくカッコいい動きをして、印象に残る人がいっぱいいて、自分はそういう人になりたいんですよね。そのために、自分が見せたいことに集中して、勝っても負けても悔いが残らないと思えるところまで練習するようにしています。だから、負けたら負けたでしょうがないというか、あまり気にならなくなりました」

モチベーションを高めてくれる仲間&チームという財産

もともと、姉の影響でヒップホップ、小学5年からブレイキンを始めた。当時は、週1回の“習い事”で、海外で戦うとは夢にも思っていなかった。そんな彼女の意識を変えてくれてくれたのは、現在も所属するチーム「Good Foot」の存在だ。

「私より上手い人ばかりで、みんなに追いつかなきゃって。チームが出る大会に一緒に出させてもらえるようになって、ちょっとずつ本気になっていった感じですね」
大学を卒業してからは、ダンス漬けの日々。しんどくて練習に行きたくない日も、時にはある。それでも、行けばそこに刺激し合える仲間がいて、結局はいつもと同じように、踊り込む自分がいる。

「1年ほど前、練習場所を変えたんですが、ダンス歴に関係なく、モチベーションの高い人と一緒にやることによって、すごく自分もいい方向に引っ張ってもらえていると感じますね。ブレイキンは、始めたばかりの人と同じステージで踊ることも全然あるし、上下関係みたいなものがないんです。年齢も関係なく楽しめるので、いろんな年代の人と交流できたり、行ったことのない地域に行けたり、ダンスをしていかなったらできなかった経験や出会いがいっぱいあるんですよね。だから、今のように練習を積んで、大会に出るというスタイルではなくても、イベントに遊びに行ったり、サイファー(円を作ってダンスを見せあう)したり、ずっと私の生活の一部にブレイキンはあり続けると思います」

今、優先すべきことを見極め、そこに時間もパワーも投資する

メディアに取り上げられることも増え、盛り上がってきているブレイキンシーン。しかし、これはブレイキンに限らずだが、日本において、Amiさんのように、ダンス一本で生活できるダンサーはほんの一握りだ。多くのダンサーは、レッスンを受け持つか、他の仕事をして生計を立てている。

「遠征や海外の大会に行くにはかなりお金が必要なので、多くの人は他の仕事をしながら踊っています。私も大学時代は、遠征費を稼ぐために睡眠時間を削ってバイトをしていました。今は、ありがたいことに、スポンサードを受けられているので、お金の心配をせずに、ダンスに集中できる環境にいられていますが、そのことを当たり前と思わず、感謝して努力し続けないと」

注目のBガールとして、テレビなどメディアの仕事や、イベントに呼ばれる機会も多い。
今、一番力を注ぎたいという大会と、どうバランスを取っているのだろう。

「絶対に自分の中の優先順位を守ると決めています。面白そうでやりたいお仕事が来ても、大会に少しでも支障が出そうだったら断りますね。そう決めたきっかけは、『Red Bull BC One World2019』のために、バイトを辞めるという決断をしたことでした。あの時、いったんお金のことは考えず、完全に、練習に集中できる状態を作った経験は、今の自分にとってすごく大きくて。あれもこれもではなく、自分が集中すべきこと、一番大切にしたいことを見極めて、そこに時間もパワーもすべてを投資するほうが、いい結果が出ると思います」

Ami
Ami

1998年生まれ。本名は湯浅 亜実。Good Foot Crew所属。姉の影響で小学1年からヒップホップ、小学5年からブレイキンをはじめる。国内の女性ブレイクダンサーの先駆けとして、数々の世界大会で優勝。これまでにBattle of the Year 2016 2 on 2 B-Girl優勝、Silverback Open 2017 B-Girl優勝、Undisputed World B-Boy Series 2017 B-Girl優勝、そしてRed Bull BC One B-Girl初代チャンピオンに輝くなどの好成績を残すAmiは、姉のB-girl Ayuと成し遂げたBattle of the Year 2016 2 on 2 B-Girl優勝をキャリアハイライトに挙げている。2022年5月20日には公益社団法人日本ダンススポーツ連盟とナイキがパートナーシップを結んだ事でも話題に。

@gfc_ami

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