好きだとか楽しいという気持ちは
生きていく上で武器になるTHE Farmer’s/兼業農家チーム
コロナ禍の決断。働きながら農夫になる
千葉外房、九十九里海沿いのサーフタウン一宮町で結成された兼業農家チーム『THE Farmer’s』は、サーフィン仲間4人が集まり、2020年5月にスタートした。発起人でサーフボード工場を運営する森山鉄兵さんは、未曾有の感染症をきっかけに、農業を本格的に始めることとなった。
「いつか農業をやりたいと思っていたんです。自分で作った無農薬野菜やフルーツを食卓に並べるのが理想でした。ぼくは、毎年冬の3ヶ月間ほどオーストラリアのバイロンベイに滞在するのですが、コロナによってそれができなくなってしまった。ちょうど冬は工場も暇になるので、始めるなら今だと。すぐに同じ志を持った仲間のサーファーたちも集まってきて、『THE Farmer’s』が生まれました」
メンバーのひとりである櫟原貴司さんは、都内で蕎麦屋を営む。波を求めて一宮に移り住み8年になった。
「将来的に、自分で育てた有機野菜をお店で出せたらいいなと考えていました。たまたま道で鉄兵くんに会ったときに農業始めるっていう話を聞いて、すぐに一緒にやりたいと伝えたんです」
サーファーとファーマーの共通項
現在は約700坪の畑と温室、山間にある約500坪のキウイ農園など、一宮町内の3カ所で野菜やフルーツを育てている。彼らのライフスタイルは、サーフィンと農業、それぞれの仕事がシームレスに行き来する。
「低気圧が来るといつ頃に波が来るかが分かるので、それに合わせて工場の仕事も農作業も進めていって、波が上がったらサーフィンメインの生活になるっていう、すごくシンプルな暮らしですね」
そう語る森山さんと、一方で東京と一宮を行き来する櫟原さんは、時間のバランスの取り方、という兼業ならではの課題を抱えつつも、今は想像以上に満足の日々を送っている。
「農業を始めて1年以上経ちますが、今まで出会うことがなかった人たちと出会うことができたし、大変だけどとにかく楽しいですね。先日も店のスタッフを畑に呼んで一緒に土いじりしたのですが、飲食店のスタッフにとって生産者さんと直接ふれあうことはプラスになると実感しました」
海をこよなく愛する波乗りたちが
行き着いた農業の形
バイロンベイで出会ったあるファーマーがきっかけで、綺麗な海を維持するためには土壌の状態を良く保つことが大切だと知った森山さん。『THE Farmer’s』の畑では、植物性の生ゴミから植物性堆肥を作り、その堆肥を使い農作物を育て、食べた農作物の残りカスをまた堆肥に…という一連の流れが巡っていく、循環型農業を実践している。
「ゆくゆくは、一宮を循環型農業の町にしたいんです。サーフィンやりたいから住みたいけど、田舎で仕事がないからなぁ…っていう人がたくさんいるんですよ。いずれは、そんな若い子たちを雇うことができるようになればいいなと思いますし、そうすることで人が集まってきて、地域活性化につなげることもできる。全国のサーフタウンにもシェアできる農業の仕組みを作りたいと思っています。サーファー農家を広げていきたいですね。そのために今は色々試して実験しながらやっているところなんです」
農業をやると言うと、“農家は大変でお金にならないよ”と周囲は口を揃えて言った。だが、森山さんにとって、好きなことにチャレンジする時間こそ投資なのだと語る。
「手探りといえば手探りなんですけれど、自分のやりたいことであれば、サーフィンにしろ、サーフボード作りにしろ、始めたからには一生やっていくつもりでいるんです。ぼくは好きなこと、楽しいことだけをやって生きていきていたい。そうした先に、お金は後からついてくるようになればいいし、すればいいんです。やりたいことを続けていけば、いずれそれが武器になっていく。サーファーがこんなもの作れるんだぞっていうのを見せてやりたいなっていう気持ちがあるんです」
THE Farmer’s
千葉県長生郡一宮町で持続可能な循環型農業に取り組む。サーフボード工場を運営する森山鉄兵さんと大西兼司、蕎麦屋を営む櫟原貴司さんらで2020年5月に結成。一宮町内の3カ所で、約700坪の畑と温室、約500坪のキウイ農園で日々農作を行っている。「ザ・ファーマーズ」の由来は、バイロンベイにある「ザ・ファーム」という、農園にカフェなどを併設した複合施設を目指したいとの思いから。