草野絵美
2023.10.13

お金という燃料を持って、
自分の世界をどう広げるか。草野絵美/デジタル・アーティスト

AI技術を駆使した現代アートの活動や、共同創業したWeb3アニメスタジオ『新星ギャルバース』に、歌謡エレクトロユニットSatellite Youngの活動など、デジタルクリエーションの世界で輝きを放つマルチディシプナリー・アーティスト、草野絵美さん。AIの魅力や可能性を、制作工程を交えながらこう話す。

NFTと結びついたことで、
アート市場が広がった

「私は、存在しなかった架空の過去を作ることに取り憑かれています。AIを使った初めてのNFT作品「Neural Fad」では実在したストリートカルチャーをヒントにAIにそれを再構築してもらうというテーマに取り掛かりました。その時に、どうしても「タケノコ族」を再現したくなったのですが、Googleで画像検索した竹の子族の画像を見せて、AIに自分のボキャブラリーで説明したんですがなかなか上手くいかなかったんです。そこで、ChatGPTに竹の子族のWikipediaを送り、『こういうものをMidjourney(※テキストから画像生成ができるAIツール)に打ち込むとしたら、どんなプロンプト(※Midjourneyが画像生成のために必要とする短いテキストフレーズ)を書く?』と聞いたら、竹の子族っぽいものが出来ました。そこに『服の質感がサテンぽくて、着物みたいなんだけど着物じゃなくて』『メイクはグラムロックなんだけど、日本なのでちょっと薄目で』と伝えると、すべて反映して、私が書いたプロンプトを修正してくれたんですね。

つまり、作り手が予測していなかったものをAIが理知的に整理して提案してくれる。それはどこか生き物と相談しながら作っているようで、私にとってAIはツールであり、コラボレーターでもあります。かつて、藤子不二雄さんが『ドラえもんに道具を出してもらうなら?』という質問に『アイデアを無限に出してくれる道具』と答えましたが、それがまさに対話式AIは近いかも知れない。嫌な顔せず無限に壁打ちに付き合ってくれる。そういう意味で、クリエイティブを拡張してくれる存在だと思います」

草野さんは、早くからNFT(ノン・ファンジブル・トークン)を活用してきた。NFTとは、〝代替不可能なトークン〟と訳され、ブロックチェーン技術を利用してデジタルアセットを一意に識別・証明する仕組みのこと。この技術によって、デジタルアートに所有の概念が生まれ、アーティストとコレクターを直接結びつける新しい市場が生まれた。

「NFT以前のアート界は、ごく一部の国の都市における、限られたギャラリーに囲われたアーティスト作品の価値だけが上がり、それを買える人もごく限られたお金持ちだけでした。ギャラリーが、価格の半分くらい手数料を取り、2次流通して超高額になっても、アーティストは潤わないという問題もあったんです。それが、ブロックチェーン上にアート作品の価値を刻むことによって、新しい市場が生まれた。これこそがNFTアートの最も革命的なところで、アート投資が限られた人だけのものではなくなったんです。ただ、NFTは1~2年前にバブルが起きて、今は幻滅期に入りました。一時的にお金儲けを目的としたアーティストやコレクターが淘汰され、今は真剣に作ってる人とアートを本当に愛する人たちが残り健全になっていると感じます。センセーショナルな事例ばかりが注目されがちですが、小規模であっても、一貫した作品作りをしている人には一定数のコレクターがついていて、彼らはやりたくないクライアントワークをしなくてよくなるんです。。NFTは、必ずしも投資の対象だけではなく、本当に好きなアーティストやキャラクターと繋がる手段と考えるといいと思います」

子どものうちから、
お金や投資の大切さを伝える

草野さんとNFTアートといえば、息子でNFTアーティストの「Zombie Zoo keeper」が大きな存在だ。2年前に音声SNSアプリ「Clubhouse」で知ってNFTを知ってから、食卓で話していた。息子も興味を持ち、夏休みの自由研究としてゾンビのピクセル画を描いた。夏休み中は売れなかったが、9月に入ると状況が一変。海外インフルエンサーのトレバー・マクフェデリーズ氏が購入し、その後世界的DJスティーヴ・アオキなどが二次流通で購入し日本でも大きな話題となった。これをお金の話を子供とする好機と捉えた草野さん。作品が売れるということが、どういう意味を持つのか伝えることにした。

「『お金がいっぱい集まっているかどうかが、あなたの作品の価値をきめるわけではないんだよ。どんな状況であっても、あなたの絵は個性的でカッコよくて、それが今、世界に届いて、評価されている。それは、〝時の運〟もあって、それは努力したからといって手に入るわけではない才能だからこそ、行動して掴んでいかないといけないね』といったことを話しました。聞かれたことには誠実に答えたくて、『ママとパパはどれだけ稼いでるの?』という直球の質問も、濁さず金額を言いました。『私たちは本当にラッキーだね。でも、これからも同じように稼げるわけではないし、市場のバランスも考えなきゃいけない。それは、ママに任せてくれていいんだけど、お金はすごく大事だよ』と伝えました」

親子のお金の会話は、税金の話題にも及び、その役割を伝える大切な時間に。

「2次流通でたとえば100万円売れたとしても、入ってくるのは5%なんですけど、小学生にしたら大金を稼いだことになるわけです。でも、その半分くらいは税金として払わなければいけない。じゃあ、税金って何に使われているのか。『ガードレールや学校も税金で作られているんだよ』『すごいね!』と税金の大切さを伝え、確定申告も息子に説明しながらやりました。『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』という漫画を一緒に読みながら、『パソコンは経費だね。じゃあ、これは?』って経費クイズが始まりました(笑)」

ジュニアNISAを一緒にやったり、トレーディング感覚が養えるアプリを選んだり、小学生から投資に触れさせている。

「きちんと理解するのはこれからでしょうけど、投資すると、お金に働いてもらうことができることを伝えたくて。下の2歳になった子どもに、お金の話は当然まだ無理ですが、お買い物ごっこはキャッシュレスなんですよ。『小銭はないです。PayPayで』って(笑)」

お金も人望も複利効果で増えていく

草野さん自身も、コロナ禍でお金と改めて向き合うようになり、投資を始めるようになった。

「最初は米国の個別株を買っていて、決算を追ったりもしていたんですけど、それはコロナ禍で時間があったからできたことでした。今は、投資関連の書籍を読み尽くした後、教科書通りに、自動引き落としというラクな方法で米国株のETFを長期投資しています。初めて数年で、すでに複利効果で資産が増えていて、将来への安心感がありますね。もっと早く始めておけばよかった!」

投資を実践することで、自分自身への投資の重要性についてもより明確になってきた。

「やった分、自分に返ってくるという意味では、勉強も大切な自己投資。うちの母が、専業主婦から50代で作家デビューしたんです。ずっとPTA会報などで防災の話を書いていたんですが、SNSに載せたらバズって、漫画化されたんです。それで、きちんと勉強して防災士の資格を取ろうと思ったんだけど、5万円くらいかかるらしくて。そんな時に、還暦の同窓会の誘いがあって、その参加費が旅館を貸し切るから5万円だと。『そうだ、そのお金で資格を取ろう』と、母は『私は過去には縛られないのよ』とか言いながら(笑)、同窓会に参加せず浮いたお金で猛勉強して資格を取ったんです。これって、すごくいい自己投資だなって」

広い意味で、自分や家族の健康への投資が大切だとも。

「いくらお金を貯めても、元気でなければ旅行もできないですし、人生の大きな選択をするにも、思考する体力が必要で、健康体であって初めていい選択ができます。そう、健康が一番の資本。そこにお金という〝燃料〟をくべることで、自分の世界がもっと遠くに、もっと広くなっていくんだと思うんです。さきほど、投資における複利効果の話をしましたけど、人そのものも、日ごろの行いが複利的に積み重なり、人望として返ってくるように感じます。いい評判は複利で積み重なりお金も増えていくし、悪い評判はリボ払いのように逆複利が働く。お金という誰もが共通して持っているモノサシによって、その人自身がどんな意識で仕事をし、日々暮らしているのか。すべてが可視化されているのが、今なんだと思います」

草野絵美
草野絵美

デジタル・アーティスト。株式会社Fictionera代表。東京藝術大学非常勤講師。AIを使った創作活動を行うマルチディシプナリー・アーティスト。ロンドン、韓国、アメリカ、ポルトガルなど国内外で展示を行う。デジタルネイティブ世代がまとめた現代の新しい子育て論『親子で好奇心を伸ばす ネオ子育て』著者。最新テクノロジーの仕組みを理解する実験図鑑『ミライの科学にふれてみよう おうちじっけん号』共著。2人の子どもを持ち、数々のメディアで子育てに関するエッセイ執筆やインタビューを受ける。子育てをプロジェクト化し、親子で一緒に高めあうことを目指している。NFTアーティスト「Zombie Zoo Keeper」の母。2022年、共同創業した「新星ギャルバース」が24時間売上ランキングで世界1位を記録。
金沢21世紀美術館にて開催される『DXP 次のインターフェイスへ』(10月7日〜2024年3月17日)に参加予定。

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