大日方久美子/パーソナルスタイリスト
2024.12.26

自分らしくできる時に
できることを大日方久美子/パーソナルスタイリスト

アパレル販売員を経て独立し、パーソナルスタイリストとして活躍する大日方久美子さん。依頼者のライフスタイルに合った提案で人気を呼ぶ。フリーランスになった彼女の大きな武器はインスタグラムだった。これほどまでにインスタグラムが影響力を持つ以前の’14年から始め、今年で10周年を迎えた。その間、ファッションとの距離は大きく変わった。

「ニューヨーク、ミラノ、パリのコレクションは欠かさず見ていましたし、ひたすらトレンドを追っていました。それが3年くらい前、急に流行ものに飽きちゃったんです(笑)。自分の中でやり切ったんでしょうね。友人が心配するくらい、ブランド物を手放しました」

着る服も、以前は365日違うスタイリングをしていたが、今では毎日同じでも全然平気と微笑む。

「もちろん同じパンツを着まわしたり、アクセサリーや靴を代えるとかで変えていたんですけど、上から下まで小物もすべて同じというスタイルは、何年もしていませんでした。どうしてあんなにも毎日違うスタイルでいることに固執していたんでしょうね(笑)。多分、自分の内面を外見だけで表現しようとしていたんだと思います。常に誰かに見られることが前提だったから、鏡に映るのが過去の自分であることがすごく嫌でした。常に新しい自分として見られたかったんです。でも今は、自分自身がこうしたい、こうありたいというビジョンがあるから、新しい/古いという価値基準が私の中から消えました。もうクローゼットに入る分だけの洋服しか必要ありません。自分軸の価値観を作るのに10年かかりましたね。その間、誰かが作った価値観を一生懸命咀嚼しようとしたからこそ、他人の評価に振り回されない価値観に辿り着けた気がします」

犬猫の保護活動も人生も
けっして無理をせず

〝自分がこうしたい〟こととして熱心に行っているのが、犬や猫の保護活動だ。パーソナルスタイリストが生活費を稼ぐための〝ライスワーク〟で、保護活動は人生をかけて取り組む〝ライフワーク〟と位置付ける。本気だからこそ、悔しくて悲しい想いをすることもある。

「今、譲渡会にたくさんの方が来てくださるんですが、中には譲渡の条件に合わない方がいて説明して謝ると、『お金がないわけじゃないから』とペットショップに行かれることがあって…。アニマルウェルフェアなどの観点からペットショップではなく譲渡という形を推奨していて決してお金の問題ではないのですが、せっかく譲渡会に足を運んでくれた方や身近な人がペットショップやブリーダーで買いましたと見せに来られると、自分の不甲斐なさに、家に帰って泣いてしまいます」

活動に携わる人の嫌な面を見て、考えさせられることもあるそうだ。

「犬をゴミ袋に入れて捨てた人がいるとしますよね。その行為は言語道断ですが、『捨てた人は地獄に堕ちろ』だとか『お前がゴミ袋に入って死ねばいい』とまで言う人がいるんです。犬を守っているからといって、誰かを攻撃していいわけではないし、人に優しくできない人が、捨てられた子を守れるのかなって思うんです」

活動を続ける中で、さまざまな問題が見えてきた。お金の問題もその一つ。

「保護活動はものすごくお金がかかるんです。宝くじで7億円当たったら5億円を投資に回して10億円くらいにして活動に充てて…なんて想像してます(笑)。寄付は、集めて信頼できる保護団体にお渡しすることはあるんですけど、基本的にはもらわないようにしているんです。というのも、寄付金をベースに活動していた人が心折れたり、寄付金を巡ってトラブルになったりするところを見てしまって…。自分自身の心を守りながら保護活動をするためにも、ライスワークで絶対に稼ぎ続けるぞと思っています」

傷つきながらも活動をやめず、働いたお金と時間、そして愛を費やす。その情熱はどこから湧き出てくるのだろう。

「よく聞かれるんですけど、みなさんきっと、道端におばあちゃんが倒れていたら、怪我をした子どもがうずくまっていたら、声を掛けるだとか何かしますよね。私の中ではそれと同じ感覚なんですよね。傷つくこともありますけど、その一方で見知らぬ方から『あなたの存在を知って、人生が変わりました』と言ってもらうこともあって。そちらの声に耳を傾けていれば、頑張れます」

保護活動は「できる人が、できる時に、できることを」がテーマ。それはどこか〝できる範囲で無理をしない〟という投資の理想的な形と似ている。

「無理をしないというのは、保護活動を続けていく上だけでなく、人生において本当に大事だと思います。無理をして誰かに会って、無理をして話を合わせて…。そんなふうに生きていると違和感だけがどんどん積もっていっちゃう。自分がどう感じるのか、自分がどう生きたいのか、心と脳を直結させてあげて、自分に嘘のない生き方をすることが一番大事だと思います」

新しい幸せの価値観を
知ってもらいたい

お金の管理は、デイトレーディングをしている夫にまかせっきりだそう。そんな大日方さんが行っている投資は、アートを買うこと。それは値上がりを見込んでいるわけではなく、心を支え、満たしてくれるものへの投資だ。

「アートを買うのは、ものすごくポジティブな感情が生まれた時なんです。心が折れそうになってその絵を見ると、買った時の感情を思い出して、やっぱり頑張ろうと気持ちを切り替えることができます。まったく知らない作者がアートに投影したものが、私の気持ちとぴたっと合うこともあるんですよ。そういうアートを買えた時はすごく嬉しいですね」

最近、人生最大級の買い物をしたばかり。郊外に家を新築したのだ。東京の住まいでは、買い足してきたアートを飾る壁のスペースがなくなってきたのが理由の一つ。もう一つは、保護した犬猫が自由に遊べる広い庭がほしかったから。

「テーマは〝動物が遊べる美術館〟です。夫と二人で会社を始める時に、企業として社会貢献をしようと決めたんです。若い才能ある人をサポートするパトロンシステムを選び、その一環として、家の建築家もそういう方にお願いしました。夫も私も大人ですから、それぞれ自由にやっていたんですけど、移り住んだら朝ごはんは一緒に作ろうね、畑をやろうねって約束しているんですよ。15年くらい田舎暮らしをして、70歳近くになったら東京にもう一回、病院やスーパーが近くある場所に、小さなマンションを買えたらなって。最先端のファッションが身近になくても、心豊かに暮らせて幸せだというところを見せられたら嬉しいですね。そうした新しい価値観を提案するのも、恵まれた環境にある私たち大人の義務だと夫婦で話しているんです」

大日方久美子
大日方久美子

アパレル販売の経験を経て、2013年よりパーソナルスタイリストとして独立。独立後に始めたインスタグラムでは、服の値段にかかわらずエレガントでスタイリッシュな着こなしを提案し、9.8万人のフォロワーを持つ。現在はアパレルブランドのWEBページでスタイリングやモデル、イベント企画なども行っている。2016年4月には初となる著書「“エレガント”から作る大人シンプルスタイル」を発売。

Instagram: @kumi511976

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