投資は未来の選択肢を
広げてくれるもの銅冶勇人/起業家
アフリカのカラフルなテキスタイルを用いたアパレルブランド「CLOUDY」。アフリカで教育・雇用の創出、食料支援などを行う活動から誕生したブランドの立ち上げの経緯とこの先の未来について、代表を務める銅冶勇人さんに聞いた。
「大変なのによくやるねって言われてきましたけど、今でも自分としては辛いだとか大変だという感覚がないんです。僕にとっては自分がやりたいか、やりたくないかというシンプルな話で、大事なのは、己がやりたいからやっていることが、誰かに喜んでもらえるかどうかだけ。現地の人たちの顔が浮かび、直接この人たちのために動けていることが、何にも代えがたいモチベーションになっています。時間は、気の緩む時間をかき集めたら作れるものです(笑)」
そもそもアフリカに興味を持ったのは中学時代。近所の図書館で世界の民族を紹介する写真集を手にしたことだった。そして、大学の卒業旅行でマサイ族の家庭にホームステイをし、アフリカで2番目に大きいスラム街へ。この訪問がその後の人生を決定づける。
「『昨日、誰かが死んだ』『どうせ病院に行けないから死んでも仕方ない』といった会話が普通に飛び交ってるんです。身近にある死に対して解決する方法がまったくない。人生で初めて、どうにもできないやるせなさを感じたあの時の衝撃は大きかったですね。本当に何もないんですよ。食べるものも仕事も教育も、何もない。そうした光景を目の当たりにして、何かをここに作りたいという衝動に駆られたんです。現場で何が起きているのかしっかり見て、現地のみんなと協力しながら、現場が本当に必要とする方法で、社会問題を解決したいと」
初期衝動は薄れることはなく、現地支援へと突き進んでいく。もちろん、会社での仕事をないがしろにしたつもりもない。「英語ができない、経済に興味がない、数字に弱い」そんな銅冶さんのために動いてくれる人が周囲に溢れていたことが、全力で取り組んでいたことの証だろう。しかし、いつしか気持ちがアフリカへと傾いていたことに気づかされる。
「部下に『アフリカのことをやっている時はすごく楽しそうですね』と言われてハッとしました。一生懸命戦っているチームメイトに、そんなふうに思わせていた自分が恥ずかしかったです。そんな人間はもうこのチームには不要だと思い、次の日に辞表を出しました」
試行錯誤で構築した
途上国支援フォーマットを世界中へ
退職した翌年、株式会社DOYAを設立。学校の設立や運営を行うNPO活動と並行して、アフリカの伝統や文化を今の時代に合う形で表現するアパレルブランド「CLOUDY」を作った。そこには女性の雇用を作りたいという想いがあった。
「NPO活動ではずっと教育にフォーカスしてきたんですが、数年前に僕らが作った学校を卒業した女の子たちが娼婦になるケースがたくさんあると知りました。この圧倒的なジェンダー格差をどうしたら解決できるのか。その答えがアパレルビジネスでした」
現地に自社工場を作り、そこで彼女たちを雇用して、プロダクトを作り売ることに。その売上の10%をNPOに還元するシステムを構築したが、最初から上手くいったわけではなかった。工場から上がってきた商品のうち6~7割はB品。中には、工場のミシンを家族のために使ったり、売ったりする人もいた。それが昨年、約90%が正品として仕上がるようになった。数字が飛躍的に向上した大きな理由にチーム作りがある。
「成績トップ3を表彰して、報奨金を出したんです。これが向上心を持たせるのにすごく効果的でしたね。チーム内で教え合い、成績を上げようとするようになったんです。なぜこの方法をもっと早く気づかなかったのか(笑)」
ブランド立ち上げの準備に3年を費やし、その間は自己資金を投入。利益が出るまでにさらに3年かかった。現在、睡眠時間3時間。仕事とプライベートを分けることは苦手。シームレスに働き、ビジネスも軌道にのりつつある今、銅冶さんの活動は、次のフェーズを迎えつつある。
「正直、途上国に学校を作るだけならそこまで難しくはないんです。大事なのは、建てた後の運営です。先進国がお金を与え続けるのも、格差が縮まらないからよくない。現地の人が自分たちの力だけで自走できるようにならなければ意味がないですからね。そもそも学校に通ったことがない親の物差しで考えると、労働力の子どもに教育を受けさせる意味をまったく感じられないんです。だから、せっかく学校が出来ても、半年後には子どもたちは労働に戻ってしまい、ほぼ誰も通っていないということが往々にして起こる。それならば、給食を提供すれば学校に行く意味ができます。さらに、給食の材料を作る畑を敷地内に作って自給自足のサイクルを生もう、さらに缶詰工場も作れば雇用も生めます。こうしたフォーマットは、世界中の途上国で通用すると思うんですよ。ただ、今活動しているガーナでも、ゴミの問題を解決するためにアップサイクル工場を作るなど、まだまだやりたい、やらなければいけないことが山積みです。なので、このフォーマットを〝CLOUDYモデル〟として広めることが、次のフェーズなのではないかと思っています。世界各地で起こっている社会問題を解決するのに必ずしも僕を介する必要はありません。いろんな人にどんどんこのフォーマットをコピー&ペーストして、役立ててほしいと願っています」
投資は未来の選択肢とビジョンを
広げてくれる
投資をまったくやっていなかった会社員時代に比べれば、今は多少やっているという。始めてみて、投資は未来の選択肢やビジョンを広げてくれることに気づいた。
「今の僕には、生活や自分の未来を考える上で、投資は絶対に大事なことだとわかります。投資は、やらなければ見なかった、見る必要がなかった世の中の動きに触れるいいきっかけになって、ビジョンがすごく広がるとも感じますね。僕にとってお金とは、選択肢をもたらしてくれるもの。お金を作らなければ、アクションを選択することができず、何もアフリカに届けることができません。非営利団体の人には清貧のイメージがあるというか、胸を張って『お金をください!』って言いづらいんですよね。でも、非営利団体がアクションを起こすのに一番必要なのがお金です」
人生のモットーは〝やってもやらなくてもいいならやる〟。親からもらったこの言葉に導かれてきた。
「たとえば『美味しくなさそう』とか言うと、『食べてもないのに判断するな』って親は言うんです。何かにつけそう言われて育ってきたので、学校の昼休みに編み物会があると聞けば、僕は行くんですよ。そしたら、男子は兄だけでした(笑)。端から否定せずに、とにかくやってみる。それが何かのきっかけになって役立つこともあるし、やってみてダメでも学びを得ることはできる。編み物にしても、小学生の時にやったことがあるだけなのに、ゴールドマン・サックスの就職面接で編み物が趣味の面接官がいてめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。アフリカに行くことも、学校を立てることも、ブランドをやってみることも地続きで、とにかくやってみたから今があるのだとつくづく感じます」
銅冶勇人
起業家。1985年生まれ、東京都出身。2008年慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。並行して2010年にアフリカで教育・雇用の創出、食料支援などを行う特定非営利法人Dooooooooを立ち上げる。2014年に会社を退職し、翌年株式会社DOYAを設立。アフリカの伝統的なファブリックをはじめ現地の手仕事・文化を生かすアパレルブランド「CLOUDY」を展開。NPO活動との両輪で事業を行う。