渡邉崇人
2023.1.27

お金によってできることが
増えた先に、
真の自由がある渡邉崇人/株式会社グリラス
代表取締役CEO兼CTO

研究費を確保できなければ、
研究が死んでしまうという危機感

世界人口の増加で、予想される食料不足。その一方で、大量のフードロスが発生している。そんな中、注目を集めているのが、高タンパクの食用コオロギ。家畜よりも少ない餌や水で年間を通じて育てられ、しかも餌はフードロスでまかなえてしまうのだ。
※本来食べられるのに捨てられてしまう食品

徳島大学発のスタートアップ企業・グリラスでは、自社で生産したコオロギパウダーを使った食品ブランド「シートリア」を販売している。そのグリラスでCEOを務めるのが、渡邉崇⼈さん。コオロギとの接点が生まれたのは、徳島大学大学院の修士課程でのことだった。

「研究室は、就職に有利といったことは考えず、純粋に自分の興味だけで選びました。そこで研究対象だったのがコオロギで、どう遺伝子が働いて、コオロギの脚や羽根が生えてくるのかといった研究をしていたんです。当時は、食用として研究する発想は一切ありませんでした」

修士・博士課程を終え、研究員として働くようになってからは、研究費用をいかに確保するかという、お金の問題が大きくのしかかってきた。

「自分の研究費は自分で取らないとならないんですが、申請書類を頑張って書いても、申請に落ちるんです。理由を聞くと、『コオロギの研究が社会の役に立っているとは思えない』と言われてしまう。彼らの考えを『社会の役に立っている』と変えることができなければ、研究が死を迎えるという危機感がありました」

意味のある研究をやっているはずなのに、認められない。悔しさはあったが、渡邉さんはそこで立ち止まらず、潤沢な研究費を取れる方法を模索する。

「コオロギを買ってもらうための価値をもたせようと、いろいろ考えました。家畜の餌にするのが一案でしたが、そのために養殖するのは、割に合わない。そもそも、人間が食べるまでにワンクッション挟む意味がありません。コオロギの成分で薬をするのはどうか。おそらくできるんですが、10年、20年とかかり、その間に自分たちの研究がダメになってしまう。そこで、食用としてのコオロギの研究に舵を切りました」

これまでの食生活を守るために、
昆虫食を一般化したい

今でこそ、環境負荷の低いタンパク源として、食用コオロギの存在は知られるようになりつつあるが、食用の研究をスタートさせた2016年は、昆虫食はごく一部のマニアの楽しみにとどまっていた時代。周囲の反応も散々だった。

「研究室のOBからは『気が狂ったのか』と言われました(笑)。それが、2020年に無印良品が、うちのコオロギ粉末パウダーを使ってせんべいや2021年にはチョコを出した時は、『すごいぞ』と(笑)。新しいものを食べることは、とても心理的ハードルが高く、今でも突破しないといけない課題ですが、あの無印良品が、未来を考えてコオロギのお菓子を出す。このメッセージはとても大きかったです」

22年11月には、国内で初めて学校給食にも使われ、ネットニュースが配信されると、SNSのトレンドにあがるほど、大きな話題に。コオロギが生活の中で当たり前の存在になるという、グリラスの掲げるミッションが達成される日も、そう遠くなさそうだ。

「昆虫食と聞くと『昆虫しか食べられない時代がくるのか』と不安に感じる方がいますが、おそらく一般食はこれまで通り続きます。もし、10人に一人、1週間に1回、コオロギでタンパク質を摂るようになると、食料問題や環境問題に対して、かなりのインパクトを与えることができる。昆虫食だけの時代が来ないように、今までの食生活を守るために、僕らが頑張らないと」

お金に縛られないのが、
僕が考える真の自由

グリラスではCEOとして、主に経営に携わる。徳島大学の研究室でも、「資金の心配をせず、研究をできる環境作りを自らの役割だと考えている。

「もちろん、自分自身が研究はすごく楽しいんですよ。もともと知らないことを知りたい欲求が高く、結果がでた時なんかはもう大興奮です(笑)。でも、今は、研究室の学生が自由に研究できて『こんな結果が出ました』って嬉しそうに駆け寄ってくる姿が見られれば、それでいいんです。幸運なことに、こうしてスタートアップ企業を作ることができて、ある程度のところまで成長させて、売却したら、未来の若者たちに投資ができるかもしれない。できることを増やしてくれるのが、お金だと思います」

そもそも、研究者になったこと自体が人生の投資であり、究極的には、お金から自由になりたいとも話す。

「“Time is money”という言葉がありますが、長い時間を費やす仕事を選ぶことが、人生の投資だと僕は考えます。でも、お給料をもらって働いている時点で、どうしてもお金に縛られ、自由が得難い。研究費の制約で、自由に研究できないことが最たる例です。お金によってできることが増えた先には、金銭的な心配をせずにすむようになりたい。お金に縛られず、真の意味で自由に生きたいんです」

渡邉崇人
渡邉崇人

株式会社グリラス代表取締役CEO兼CTO。徳島大学 バイオイノベーション研究所 講師。徳島県生まれ。2013年徳島大学大学院博士後期課程修了後、徳島大学農工商連携センター・特任助教等を経て、現職。大学4回生から15年に渡ってコオロギ研究を継続中で、コオロギを社会の役に立てるべく2019年にグリラスを起業。ゲノム情報、ゲノム編集技術を活用し、食用コオロギをメインに有用昆虫の系統育種の研究を行う。趣味は徳島の美味しい食事とお酒を楽しむこと。実家は徳島市内で飲食店を営む。

Twitter @Gryllus_jp

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