呉本圭樹
2023.3.28

〝どう稼ぐか″と〝どう楽しむか″を
いずれ共存できるようにしたい呉本圭樹/プロパラグライダー/アウトドア
コンサルタント

10年間の選手時代、
人脈と知識という財産を得た

中央アルプスのふもとに広がる自然豊かな長野県伊那市。そこで、パラグライダーやオフロードバギー、SUPなどアウトドアアクティビティを楽しめる複合施設『ASOBINA』を主宰する呉本圭樹さん。映画『トップガン』や飛行機が大好きだった少年時代、日本に入ってきたばかりのパラグライダーを楽しんでいた親の影響もあり、空を飛ぶ楽しさに目覚めた。

「僕の親は夏休みに、子どもが自転車に荷物積んで『旅行してくるわ』と言っても、全然心配しないタイプで(笑)。パラグライダーに限らず、スキーも自転車も、とにかくアウトドアが好きな子どもでした」

大学卒業後は、アウトドアとは関係のない会社に就職。その職場が合わなかったことが、自分自身を見直すきっかけになった。

「元来、負けず嫌いで、パラグライダーの大会で下位になると悔しくて仕方なかったんですけど、マイナースポーツにのめり込むと、自分の世界が狭まるような気がしてもいて。要は、パラグライダーに対して中途半端だったんです。そんな状態で働き始めたもののしっくりこなくて、社会人としてこれではダメだなと。じゃあ、自分が一番やりたいことって何だろうと考えたら、やっぱりパラグライダーだったんですよね」

マイナースポーツのアスリートとお金

心を決め、パラグライダーのインストラクターに転職。やがて、とある会社の社長からアスリートとしてスポンサードの誘いを受ける。その会社の全面的なバックアップを受けて初めて参戦したワールドカップで6位入賞。パラグライダーの選手として、10年にも及ぶ海外遠征の日々が始まった。

「パラグライダーは、遠征費、道具代、トレーニング費と結構な金額がかかるのに、世界レベルになれても賞金はないに等しく、優勝しても持って帰れるものは名誉だけ。練習しながら選手同士で『僕たちは命を張ってるのに、何もリターンがないよね』ってよく話してました(笑)。スポンサー会社の経営が悪化すれば、真っ先に切られる不安も常に付きまとっていましたね。だから、今思えば投資などにも挑戦しておけばよかったって本当に思うんですよ。選手としての活動とは別のラインでお金を増やして、スポンサー料だけに頼らず資金調達をできていれば、金銭的な不安はだいぶ解消されたはずでした」

6年連続アジアランキング1位、世界ランキングは最高位8位。世界選手権でアジア人として初めて、日本チームとして表彰台にも立った。そんな10年間の選手生活で得た財産は、「お金ではなく、アウトドアの技量や知識、そして人脈」だった。

「昔は、パラグライダーの道を突き進むことで、世界が広がらなくなると思っていたけれど、むしろ逆でした。突き進んだおかげで、世界を見ることもいろんな人と繋がることもできた。大怪我をして意識不明になったり、大変ではありましたけど、10年という時間を投資した結果、豊かな人生というリターンがありました」

第2の人生はアウトドア振興と
地域活性に取り組む

引退後は会社を立ち上げ、翌年には地元の長野県伊那市でアウトドア複合施設『ASOBINA』をオープンさせた。

「『ASOBINA』では、大人がバーチャルではなく、リアルに遊ぶことが重要だと考えています。大人が楽しいと感じれば、子どもにもやらせたいと思いますし、遊び方も教えられますから。フィールドでの遊び方をどう教えるかは、すごく大事です。日常生活では、赤信号で渡っちゃいけないとは教えるけど、危険なのは赤信号だけじゃないですよね。状況によっては青信号も危ないとまできちんと教えられる親ってなかなかいない。ましてやフィールドには信号すらなく、頼れるのは自分自身だけです。そうした世界での遊び方を大人に知ってもらい、子どもに伝えていかないと、アウトドア文化は広がっていかないんです」

伊那市は過疎化が進むエリアで、地域再生の役割も期待されている。

「伊那市は、すごくいいところなんですけど、長野県内の中でもなかなか立ち止まってもらえない場所なんです。観光としてどうこの自然資源を活かすのか。そんな課題に、僕らはアウトドアの領域で取り組んでいるんです。日本の山はどこも継承問題によって手入れが難しくなっているみたいですが、荒れてきているこの現状で僕らのようなアウトドア業者が入って里山を整備することで、山を維持管理していく、これはビジネスプランとして成立していけると思っています」

固定概念抜きに
新しい楽しみを創出したい

小さい頃から親しみ、自らの世界を広げてくれたフィールドスポーツ。「こんなに楽しいのにやらないのは本当にもったいない!」と熱がこもる。

「人がやらない理由は、環境がないからというのが大きいと思うんです。だから、僕は自然を楽しみきる〝遊びクリエーター″として、いろんな場を作っていきたい。それには、パラグライダー界、アウトドア界の常識にとらわれ、その中だけで繋がっていても、あまり広がりがないと思っています。たとえば床屋さんとパラグライダーとか、まったくの異業種と組んだら新しい〝遊び″ができるんじゃないかみたいなことを常に考えています」

最近、夢中になれるフィールドスポーツに出合ったばかりで、楽しくて仕方がないとも続ける。

「1ヶ月前からカイトサーフィンを始めました。また熱中できるものが見つかり、自分を高めていけている実感があります。人生〝どう稼ぐか″より〝どう楽しむか″だと僕は思うですけど、そもそものこの考え方が僕らの世代が植え付けられた固定概念な気もするんです。きっとこれからの時代は、〝どう稼ぐか″と〝どう楽しむか″が一緒になって考えられるようになっていくのだと思いますし、僕もそう考えられるようにいたいと思っています」

呉本圭樹
呉本圭樹

プロパラグライダー/アウトドアコンサルタント。1978年生まれ。長野県伊那市出身。パラグライダーインストラクター兼プロパラグライダーパイロット。15歳で初めて空を飛んで以来、空の魅力に取りつかれ、インストラクターの経験を経て競技の世界へ。戦績として世界ランキング8位、6年連続アジアランキング1位、日本代表選手選抜ランキング1位、ジャパンリーグ1位。2019年には文部科学大臣賞を受賞したほか、 世界選手権にて日本チームとして初めて表彰台に登り、アジア初の快挙を成し遂げる。最長飛行航続距離を更新し、日本記録保持者としても表彰。アスリートとして活動する一方、2016年にアウトドアカンパニー『ERUK』を伊那市に立ち上げ、アウトドアアクティビティの複合施設『ASOBINA』とマウンテンバイクパーク『GLOPANTE』を経営。アウトドアスポーツを通じた地方創生、スポーツ選手の育成を軸とした事業展開も行う。

Instagram @yoshikikuremoto

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