小菅くみ
2022.11.29

作品と自分の楽しみのための
「投資」は惜しまない小菅くみ/刺繍作家

刺繍がお金をもらえる仕事になるとは思わなかった

個展やポップアップストアを開くと、すぐ作品が売れてしまう、人気刺繍作家の小菅くみさん。かわいらしさだけでなく、つい噴き出してしまうようなユーモラスもある作風で知られている。

「モチーフはクライアントのリクエストごとに変わりますが、見ていてクスっと笑えるもの、見ていて楽しくなるものを縫いたいというベースは、ずっと変わりません。私の刺繍は独学なので、ちゃんと勉強した人から見ると雑だったり、ハチャメチャに感じるかもしれません。でも、独学だからこその面白さが、私らしさになっているんじゃないかな」

大きい作品だとひとつ縫い上げるのに1週間もかかる。基本的には自宅で家事を済ませた昼間か、家族が寝静まった夜中に縫うが、意外なところでも作業をする。

「道具があればどこででも縫えるのが刺繍のいいところ。締め切りが近いと、移動中のバスやタクシーの中でもやります。一度、等身大の人を新幹線の中でひたすら縫っていたこともありました。チラチラ見られましたが、私は人の視線は全然平気(笑)。サウナのワーキングスペースでやることもあります。1時間縫ったら30分サウナに入って、また1時間縫ったら30分サウナとやっているので、さすがに『趣味は家でやったら?』って思われているかも(笑)。なかなか刺繍はワーク=仕事とは見られないですから」

刺繍を始めたきっかけは、21歳の時、難病で入院して時間を持て余したからだった。当時は、刺繍が仕事になるとは本人さえ思ってもいなかった。

「入院中も自宅療養中もとにかく手持ち無沙汰で、何か手を動かしたいと思ったんです。それが刺繍だったのは、家庭科の教員免許を持っている母が家で裁縫をしたり、100歳になる祖母がいまだに油絵を描いていたり、身近に何かを作る人がいたことが大きかったと思います。それで、友達に頼まれたものを縫うようになったんですが、最初はお金をもらっていませんでした。病気で何もできなかった自分が、人の役に立っていることがとにかく嬉しかったですし、それだけで満たされていたんです」

「ちゃんと仕事にしたほうがいい」とアートディレクターの友人など、周囲からの後押しを受け、パルコのポップアップストアなどで売り始めた。

「まさか刺繍でお金をもらえるなんて思っていなかったから、最初は値段をつけるのも苦手で……。友達たちに値付けしてもらい、その刺繍が売れていくたびにちょっとずつ自信になり、『刺繍を仕事にしていいんだ』って思えるようになりました」

友人とのお喋りやサウナで心身のメンテナンス

アイデアは、歩きながら浮かぶこともあれば、好きが高じてサウナ・スパ健康アドバイザーの資格までとったサウナでひらめくこともある。友人との会話は、アイデアの宝庫。自分の決め事として、友人から見聞きした楽しいことや面白いことは、すぐに試してみることにしている。

「友達を通じて、新しいことを知ることがすごく刺激になっていて、おすすめされたらすぐ刺繍に反映させます。とにかくお喋り好きというのもあるんですけど(笑)。私にとって、人と話し、聞くことは、アイデアがいっぱい沸くし、心もスッキリして、いいことしかないんです。多少忙しくても、誘われたら友達の家に道具を持って行って、縫いながらしゃべっていますね。それで癒されたり、救われたりすることもあるから、おしゃべりは、人生にとって大切な時間的投資です」

年齢を重ね、友人たちと健康の大切さについて話すこともある。

「40代に入り、友達と会うと老眼や四十肩の話をして、最後は『お互い体には気をつけようね』って言って別れるようになりました(笑)。仕事に恵まれ、楽しくやれている今、続けていくには健康であることが大事だとしみじみ感じますね。これまで全然、体を動かしてこなかったので、時間がある時はウォーキングを始めました。サウナも、打ち合わせの近くや帰り道にあるところに立ち寄るなど、ほぼ毎日行っています。サウナは心身共にスッキリするので、精神的にもノーストレスでいられます。心身のメンテナンスには、髪を切ったり、整体に行ったり、自分を整えることも大切。そのためのお金は、ちゃんと稼いでいきたいですね」

作品と自分の楽しみのための投資は惜しまずに

もともと物欲がない小菅さんだが、作品に関することにお金を使うことに躊躇はない。

「作品に対しては、刺繍の道具や展示用の額は、よりよいものを使いたい。参加したい地方のイベントがあったら、経費を気にせず飛んでいきたい。必要と感じたことを躊躇せずにできるだけの余裕は持っておきたいです。最近、いいお金の使い道だと感じているのが、確定申告を税理士さんにお願いしたこと。私、本当に事務作業に向いていなくて……。年末になるとセカセカしてしまい、心に余裕がなくなっていました。ストレスでしかない時間を過ごすより、一つでも多く作品を作って売ったほうが、結果的に精神的にも、お金的にも余裕ができるから、本当にお願いしてよかったです」

お金の余裕は、心の余裕、ひいては人生観に繋がるとも考える。

「そんなに多くは持たずとも、やっぱりお金に余裕を持っていられたらと思います。楽しいことと余裕は、私の人生から消えてしまったらすべてが崩れてしまうんじゃないかというくらい大事なことで、お金に余裕があれば、楽しいことがたくさん増えていくと思うんです」

最後に、刺繍にとどまらず、まだまだやりたいことがたくさんあると、この先の人生の夢を語ってくれた。

「私は作品の幅を広げるには、刺繍だけではないとも思い始めています。作ることに関しては、これからどんどん広がっていく予感があります。それがお金につながったらよりいっそういいですし、楽しみも増えていきそうです。座右の銘でもないですけど、宮藤官九郎さんが脚本を書いた『ごめんね青春!』というドラマがあって、主人公のお母さんが『あ~楽しかった!』って言ってぽくっと息を引き取るんですけど、私もそう言って最期を迎えたいと思うんです。『楽しかった!』って言われたら、遺された人みんな『それだったらいいか!』って悲しくならないし、最高の終わり方だなって」

小菅くみ
小菅くみ

刺繍ブランド〈EHEHE(エヘヘ)〉の刺繍を中心とした作品を製作する刺繍作家。人物や動物の繊細な表情までを刺繍で表現している。ほぼ日刊イトイ新聞の“感じるジャム” “おらがジャム・りんご”シリーズでは、レシピ製作を担当している。2021年、初の書籍『小菅くみの刺繍 どうぶつ・たべもの・ひと』(文藝春秋)を発売。

@kumikosuge

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