榎本美沙/料理家・発酵マイスター
2024.11.11

インプットする時間が
私にとって投資の位置づけ榎本美沙/料理家・発酵マイスター

自宅のキッチンから配信するYouTubeチャンネル「榎本美沙の季節料理」が人気の料理家・榎本美沙さん。発酵マイスターや、その上位資格の発酵プロフェッショナルを持ち、発酵のすばらしさも届ける。季節の食材を使った、体にいいシンプルなレシピをまとめた料理本も評判の彼女が、料理のおもしろさに目覚めたのは大学生の頃だった。

「両親が共働きで、最初は暇を持て余した大学生が無理やり料理番をさせられたという感覚でした(笑)。それが作っていくうちに、料理って無限だなって気づいたんです。工夫次第でいくらでもおいしいものを作れてしまう。こんな面白いことはないと、当時流行っていたメルマガで一人暮らし用のレシピを発信するようになりました」

就職活動では、料理系の雑誌も発刊している出版社を志望。残念ながら上手くいかず、広告代理店に勤めた。食品系のクライアント案件なら料理関係の仕事ができるかもしれないと前向きだったが、待っているだけでは一向にやりたいことに繋がっていかない。焦燥感を抱えていた頃、たまたま行ったMr.Childrenのライブに背中を押され、やりたいことを仕事にするための一歩を踏み出す決意をする。

「Mr.Childrenがものすごい数の観客の心を動かしているのを目の当たりにして、私はこのままだとずっと観客のままだなって気づかされました。これではダメだと思って、調理師学校に行くことに決めたんです。4月の入学を考えると急いで事を進めないといけないと気づき、翌日に夫と母親に相談して、その翌日には上司にも退職について相談しました」「両親が共働きで、最初は暇を持て余した大学生が無理やり料理番をさせられたという感覚でした(笑)。それが作っていくうちに、料理って無限だなって気づいたんです。工夫次第でいくらでもおいしいものを作れてしまう。こんな面白いことはないと、当時流行っていたメルマガで一人暮らし用のレシピを発信するようになりました」

就職活動では、料理系の雑誌も発刊している出版社を志望。残念ながら上手くいかず、広告代理店に勤めた。食品系のクライアント案件なら料理関係の仕事ができるかもしれないと前向きだったが、待っているだけでは一向にやりたいことに繋がっていかない。焦燥感を抱えていた頃、たまたま行ったMr.Childrenのライブに背中を押され、やりたいことを仕事にするための一歩を踏み出す決意をする。

「Mr.Childrenがものすごい数の観客の心を動かしているのを目の当たりにして、私はこのままだとずっと観客のままだなって気づかされました。これではダメだと思って、調理師学校に行くことに決めたんです。4月の入学を考えると急いで事を進めないといけないと気づき、翌日に夫と母親に相談して、その翌日には上司にも退職について相談しました」

「料理の道に進みたいことは知っていましたが、まさかあんなスピード感で進むとは思ってもいなかったです」と振り返るのは、夫のひろさん。夫婦で工程を分担して料理を作る人気サイト『ふたりごはん』のお相手で、「料理家になるからには、ちゃんと勉強したほうがいい」と調理師学校入学の後押しもしてくれた。

「私は〝料理家〟になりたいというこだわりが強く、人にも〝料理家〟として認めてもらいたくもあって、専門学校で料理の知識や技術を基礎から学ぶことにしたんです。ほうれん草は水からではなく熱湯で茹でるだとか、何となく知ってやっていたことも、理論的な裏づけを知っているのと知っていないとでは、絶対に違うと思うんですよね。きゅうりの小口切りと大根のかつらむき、にんじんの細切りをとにかく練習して、家の冷蔵庫はパンパンで(笑)。授業料は安いものではありませんでしたが、調理師免許を取るための学費と時間は、人生で最も大きい投資と言えます」

調理師免許取得にかけた
お金と時間が将来への投資に

レシピ作成に料理教室、YouTube撮影にメディア取材と、多忙な日々を過ごす。今の活躍を支えているのは、投資のリターンとして手にした調理師免許、そして地道な努力だった。メディアに登場するきっかけとなったのは、料理雑誌『オレンジページ』。大学の先輩でもあり、お世話になっていた方に、、会社を辞めて調理師学校に入学したことや料理家としての仕事など、こまめに報告を続けていたのだ。そして、ある仕事が舞い込む。

「有名なハンバーグ店のレシピを自宅で簡単に再現できるようにするお仕事でした。でも、そのデミグラスソースは自家製の梅酒を入れて13時間煮込んで、生地は一晩寝かせて…と自宅で作るには本格的な工程ばかり。なかなか大変な課題をうまく落とし込めたことで、それを見てくださった他の媒体さんに声を掛けていただくようになったんです。〝料理家〟としてのキャリアを振り返ってもあの仕事は大きかったですね」

今や11冊の本を出す売れっ子料理家。好きなことを仕事にして成功を収めたその裏には、人知れぬ努力がある。

「好きなことを仕事にして、料理本を出すという夢も叶って…というと、ハッピーな印象を受けますよね。実際、ものすごく幸せです。ただ、体にいいレシピを提案している身ですが、1冊作るごとに必ず体調を崩すんです。本1冊、約2000円というお金を出して買っていただくだけの価値は、自分を追い込んで追い込んでやっと生まれるんだと思うんですよ。そうやって作った本のレシピを実際に試してくださり、しかもそれがご家庭の味になっていると聞くと、次も頑張ろうと力がわいてきます。料理は暮らしの一部で、毎日やらなければいけないじゃないですか。その料理が楽しくなるだけで、その人の暮らしや人生そのものが豊かになると思うと、本当に嬉しくて。苦しみを伴うものでもあるけれど、全身全霊で取り組める仕事があることは私にとってこの上ない幸せです」

お金は自由に納得できる
仕事をするのに不可欠

一昨年8月には第一子が生まれ、ますます時間がなくなり、ひたすらアウトプットだけになっていく。そんな日々で一番の投資になっているのがインプットをする時間だ。

「アウトプットばかりでは変化が生まれず自己完結してしまう。時代の流れに合わせて、引き出しを増やし、レベルアップする必要性をすごく感じています。レシピ一つ作るにしても、食材に関する本を読んだり、納得できるまでやろうとするとやるべきことは無限にあるんです。本を読みながら違うレシピが浮かんだりすることもあるので、勉強してインプットする時間は、私にとって投資の位置づけになっています」

そしてまた、今年の4月から健康にいい料理をより深く学ぶために、新しい学校にも通い始めた。

「正直、金融投資にはまだ恐怖心があって、なかなか踏み出せていません。お金を運用することで還ってくるものが何なのか、私にはまだはっきりと見えていないんだと思います。でも、調理師学校の時もそうでしたが、学校の授業料を出すことに躊躇はありませんでした。これを学んだらレシピをブラッシュアップできる、料理の幅が広がることがはっきりとわかるからです」

仕事と子育てをしながら学校に通うという、料理の道を深めるためのその投資は、結果的に料理とは別のインプットの時間を生むことにもなった。

「通い始めた頃は、通学の電車内でインスタグラムの文面を考えていたのをやめて、小説を読むことにしたんです。もともと小説は好きでしたが、没入する時間が取れなくなって離れてしまっていて…。15分という短い時間ですけど、通学でできた隙間時間に読み始めたら、煮詰まっていた自分の中にす~っと空気が抜けていくような感覚があって、仕事にもスッキリした気持ちで取り組めるようになりました」

料理という暮らしに密接にかかわることを生業としている榎本さん。金融投資との距離はあっても、同じように暮らしに欠かせないお金とのそれはかなり近くに感じている。

「調理師学校も、発酵食品の世界に携わるようになった時に受けた資格の講習も、今通っている学校も、お金がなければ行けなかったかもしれません。たとえば、夏のレシピを考える時に旬のモロヘイヤを使いたいんだけど、リーズナブルな小松菜にしていたかもしれない。そもそも、バイトをしなければ暮らせず、レシピを考える余裕もなかったかもしれない。お金がないことで生まれるかもしれない〝不都合〟を想像すると、自由に納得いく仕事をするにはお金は間違いなく欠かせないものです」

銅冶勇人
榎本美沙

料理家・発酵マイスター。発酵食品、旬の野菜を使ったシンプルなレシピが好評で、テレビ、雑誌や書籍へのレシピ提供、イベント出演などを行う。オンライン料理教室「榎本美沙の料理教室」主宰。登録者34万人を超えるYouTubeチャンネル「榎本美沙の季節料理」、Instagram(@misa_enomoto)。最新刊に『榎本美沙のひと晩発酵調味料』(主婦と生活社)、その他著書に『二十四節気の心地よい料理と暮らし』(グラフィック社)、『榎本美沙の発酵つくりおき』(家の光協会)、『ゆる発酵』(オレンジページ)、『発酵あんことおやつ』『からだが整う〝ひと晩発酵みそ〟』(ともに主婦と生活社) 『ちょこっとから楽しむ はじめての梅仕事』(山と溪谷社)など多数。

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