歴史やエピソードがモノに宿り、
価値が醸成されていく大貫達正/デザイナー
コロナ禍をチャンスと捉え、ギャラリー&ショップをオープン
フリーランスのデザイナーとして、デニムブランド「WESTOVERALLS(ウエストオーバーオールズ)」や「HELLY HANSEN ROYAL MARINE CLUB (ヘンリーハンセン ロイヤル マリンクラブ)」「OLDMAN'S TAILOR(オールドマンズテーラー)」などを手掛ける大貫達正さん。コロナ禍でファッション業界や小売業が苦境に立たされた2021年夏、地元の茨城県つくば市にギャラリー&ショップ「SANTASSÉ GALERIE(サンタセッ ギャレリー)」をオープンした。
「海外はおろか、家の外にさえ出られない。世の中全体が大人しくなって、経済的にも落ち込んでいる時に、我ながら攻めたことをしたなと。でも、僕はみんなが身動き取れなくなってしまった状況を、ビジネスのチャンスだと捉えたんです。車でしか行けない場所に作って完全予約制にすれば、人の接触は最小限に抑えられます。ここは、その人しかいない時間と空間で、ワクワクできるスペシャルな買い物体験をしてもらえる空間。わざわざ足を運んでくれた、本当にモノに興味があるお客さんのためだけに、一つひとつのモノを背景まで丁寧に説明しながら接客ができます」
とは言え、コロナ禍をチャンスに変えるのは、「とても不安だった」と振り返る。それでも、信じた道を突き進む情熱とパワーが湧き出て、不安を凌駕した。
「売れなかったらどうしよう、失敗したらどうしよう、といってネガティブに考えて動かないよりも、売れる、失敗しない方法を考えて夢中で突っ走ったほうがお金は稼げますし、どんどん新しい派生が生まれていきます。この取材にしても『僕がマネックス証券のサイトに⁉』と思いました(笑)。しかし経験上、自分から動けば、まったく想像しなかった面白いこのような派生が起こると結果が示してくれます」
本質的にいいモノはネームバリューに関係なく売れる
米蔵を改築した「SANTASSÉ GALERIE」に置かれているのは、大貫さんがこれまで旅して集めてきた国内外のインテリアやヴィンテージアイテム。自身の審美眼でこだわり抜いたモノに、自分のモノサシで値付けする。だから、絶対の自信を持ってすすめられる。
「けっしてネットでは出てこないモノを、僕の時間とお金をかけて探して並べて、お客さまには実際に見て触れてもらうことが大事だと思っています。モノの価格って、どうしても市場価格があって、そこと戦わなければいけないですけど、ここは独立した自分のギャラリー。僕がモノにギャラリー体験を含めた付加価値を付けられます。市場価格より強気な値付けをしても、本質を見抜いて選んだモノは、ちゃんと売れていくんですよね。その実績をこのギャラリーで手に入れて、ブランドや作り手の知名度に関わらず良いモノは売れるという、これまで根拠のなかった自信が確信に変わりました」
無類のモノ好きの片鱗は、幼少期から現れていた。4歳にして“ジーンズ”という言葉がお気に入り。小学校に上がってからは、お年玉を握りしめてヴィンテージジーンズを買っていた。
「ヴィンテージの服をいっぱい持っていますけど、今も昔も着るやつしか買わないし、好きで使うモノしかギャラリーにもストックにもありません。自分が使ってもないのに、『めちゃくちゃいいですよ』って売り文句は嘘じゃないですか。デザインをするにしても、商売として仕方なく、価格を抑えるために妥協したことを知っててお客さんにすすめるのが、本当に嫌になっちゃって、フリーランスになったんです。仕事をする上で一番大切にしているのは、嘘をつかないこと。良いように言って、上手くやってやろうとしても、すべてを見抜いてしまう人って絶対にいるんです」
好きなモノを買い続けること=人生の投資
そもそも、大貫さんのモノに対する欲求は、どこから生まれてきたのだろう。
「人からすげぇって思われたい。見栄ですよね。みんなが履いてるコンバースよりカッコいいものを履きたいとか、昔サッカーをやってたんですけど、ウェアも一番いいやつを着てやるんだとか、人よりいいモノが欲しい気持ちは超強かったです」
嘘をつかないことをモットーにしているだけあって、自らの所有欲も包み隠さない。
「確定申告の書類上だと、だいぶ低いところに僕はいます(笑)。しかしお金を持っている人が持っていないものを持っている。その優越感はありますよ。僕はそれでいいと思っていて。誰よりもいいモノを持ちたくて買うことが、結果的に投資になっていますしね。中学生の時に、NIKEのAIRMAX95がどんどん高くなっていくのを目の当たりにして、〝モノを買う=投資″だと知りました。しかも、トラディショナルな背景がしっかりあるモノって、裏切らないんですよ。値崩れしないんです。だから、モノを買い続けることが僕の人生の投資になるんでしょうね。『どんなモノを?』と聞かれたら、シンプルに『好きなもの』。それに尽きます」
大貫達正
1980年、茨城県生まれ。18歳歳の時に原宿の古着店で販売を始め、やがてバイヤーに。28歳で独立し、デザイナーとしてのキャリアをスタート。現在は「WESTOVERALLS」をはじめ多岐にわたって活躍。新たに“Trading Post”「交易所」をコンセプトにしたSANTASSÉを設立。2021年7月末にギャラリー&ショップの「SANTASSÉ GALERIE」をオープン。