好きなことを追求する時間に
ブレない心が育まれた根本絵梨子/写真家
自然で過ごした時間が
新しい仕事を生んだ
群馬で生まれ育ち、大学は富山へ。その後、上京してファッション写真の世界へ。今では、アウトフィールドでランドスケープ撮影もする根本絵梨子さん。都会で刺激に晒された自分をリフレッシュできるのが、山で過ごす時間だ。
「山との出合いは、忙しさでいっぱいいっぱいになっていた時、幼馴染が『一緒に登る?』と誘ってくれたのがきっかけでした。登ってみると、リフレッシュできたと同時に、やすらぎが感じられたんですよね。思えば、物心ついた頃から中学生くらいまでは、山や川でよく遊んでいたんです。幼心に感じていた〝自然が楽しい〟という感覚が呼び戻されて、すぐにまた行きたくなりました」
数年前には、白馬の山小屋に1ヶ月滞在。山小屋の仕事をしながら、山にじっくりと向き合い、作品作りに取り組んだ。この時間的投資が、根本さんの活動の場を広げることになる。
「同じ場所なのに、景色や空気が毎日違うんです。五感で生活する感覚が研ぎ澄まされていくようで、毎日飽きることがありませんでしたね。山小屋には、海外生活が長い人、旅をしている人、アート系の人とさまざまな人が訪れました。そこでの出会いに刺激を受けて、それまで考えたこともなかった海外の山に行きたくなり、すぐにネパールでトレッキングをしました」
ファッションと
アウトドアフィールドに線引きはない
自然の中で撮り溜めた写真から、これまで撮っていたファッションとは別ジャンルのアウトドアフィールドでの撮影依頼が増えていった。自然の近くに居を構える選択もあるのでは。そう尋ねると、「東京とアウトドアフィールドのどちらもあるからこそ、仕事と心のバランスが取れている」と根本さん。
「いろんな人と関わりながら、一緒に作り上げていく過程が好きで、それはアウトドアフィールドでの撮影では味わえない醍醐味。なので、東京で働くことはやめられないですし、アウトドアやランドスケープの撮影は、好きなことを追求して頑張った結果が仕事になってきたので、こちらも続けていきたいんです。自分の中では、ファッションとアウトドアの線引きがないんですよね。線引きする必要もないかなって」
どちらにも偏らないベストバランスが取れてきて、根本さんの作品にもポジティブな変化も起きた。
「ランドスケープを撮りながら一番いい状態にリセットされて、東京でファッション撮影をすると、新鮮な気持ちで臨めるんです。ポートレートも、被写体の自然な部分を切り取ることに面白さを感じるようになりました。被写体に合わせて、時には待ち、臨機応変に対応するようになったのも、予想外の変化が起こる自然と向き合ったからこそ身についた姿勢です」
旅して撮ることは未来の自分への投資
東京とアウトドアフィールド。ファッションとランドスケープ。それぞれのボーダーを取り払い、互いを溶け込ませていく。仕事とプライベートも同じように、そのボーダーは曖昧。それが根本さんにとって最も心地よく感じられるのだ。
「撮影した写真に対して報酬をいただいている以上、〝写真を撮ること〟と〝お金を稼ぐ〟ことは、事実としてイコールです。ただ、お金が欲しくて写真を撮っているという感覚ではないんですよね。写真は〝仕事〟だけど〝好きなこと〟でもあって、どちらかと言うと〝好き〟のほうが大きいかな。稼ぐために、たくさん撮ったり、自分の方向性とは違う仕事を受けたりということはしません。その時間があるなら、作品作りに費やしたいですね」
コロナ禍以前は、年に一回、1,2か月海外を旅してきた。旅をしている間、収入は途絶えてしまうが、不安はないという。
「旅から戻ったら、また1年頑張ろうと思っています(笑)。正直、渡航費や滞在費、フィルムや現像代が結構かかります。でも、とにかく作品を撮らないと仕事に結びつきません。個人的な写真は、未来への投資のつもりで撮ってきました。これからも、ライフワークのカメラや旅には、時間やお金を惜しまず使っていくつもりです」
根本絵梨子
群馬県出身。写真家。2010年より渡豪。2012年より代官山スタジオ勤務。2016年よりフリーランスの写真家として活動。雑誌や広告をはじめ、ファッションからアウトドアまで、ボーダレスに活動する。