信託のルーツは紀元前にまで遡るといわれますが、制度として誕生したのは中世のイギリス、そこからアメリカに広がり、商業的に発展して日本には明治時代以降に入ってきました。
信託の制度の始まりは、中世のイギリスで利用されていたユースであると一般的にいわれています。ユース(use)とは「信頼できる人に土地を譲渡→そこから得た収益を教会に寄進してもらう」というものでした。ユースは、十字軍の遠征でも、参加した兵士たちの間で、国に残してきた家族のために利用されたといわれています。
その後、時代の変遷を経て、人と人との信頼関係に基づくものであることから、信頼を意味する「トラスト(trust)」という言葉で呼ばれるようになりました。
イギリスで生まれた信託制度は、その後アメリカに渡り、はじめは遺言の執行や遺産の管理などを中心に利用されました。
さらに、19世紀のはじめになると、信託の引受けを会社組織で行うものが現われました。そして、1861年に始まった南北戦争をきっかけとして、鉄道建設や鉱山開発など、新しい事業が盛んになり、これらのインフラ事業を行う会社の発行する社債を引受け、広く大衆に販売するかたちで資金を供給する信託会社が誕生しました。
日本の信託制度は明治後半にアメリカから入ってきました。まず最初に有力銀行が営業免許を受けて、担保付社債信託業務を行うようになりました。一方で、個人の財産の管理・運用を専門に取り扱う信託会社は、1906年(明治39年)に至って初めて設立されました。