2025年9月末、トランプ米政権は米国内での電気自動車(EV)購入補助制度を終了しました。米国のEV市場は、これまで税額控除によって大きな恩恵を受けてきましたが、今後はその追い風がなくなり、価格競争が一段と激しさを増す見通しです。米EV市場をけん引してきたテスラと、老舗のGM、フォードの3社に注目が集まっています。
本記事では、各社が直近発表した決算情報や投資指標を比較分析し、大手米国自動車メーカーの今後を探ります。
気になる米国株を決算フラッシュでチェック
マネックス証券「銘柄スカウター米国株」には米国企業の決算発表後数分以内に、決算結果をグラフにして市場予想と比較してニュースを配信している「決算フラッシュ機能」があります。日本株と同様に過去10年間の業績や成長率で絞り込みができる「10年スクリーニング」もお使いいただけますので、米国株銘柄探しにお役立てください。

数字で見るアメリカ自動車3社――テスラ・GM・フォードの銘柄分析
今回は、10月後半に相次いで決算を発表したテスラ(TSLA)、ゼネラル・モーターズ(GM)、そしてフォード・モーター(F)の米国自動車メーカー大手3社を分析します。まずは、「銘柄スカウター米国株」の「銘柄比較」ページで3社の基礎情報や投資指標、セグメント売上などを見てみましょう。

続いて、3社それぞれの特徴や直近の業績などを、銘柄スカウター米国株の個別銘柄ページなどから詳しく見ていきましょう。
今回は銘柄スカウターでチェックできる投資指標の中から「EV/EBITDA」に着目しています。「EV/EBITDA」は、企業の収益力に対する企業価値の割安・割高を示す代表的な指標の一つで、一般的に数値が高いほど、利益に対して企業価値が割高に評価されていることを意味します。同業他社間での企業価値を比較するのに有効です。
テスラ(TSLA)
企業概要
テスラは、垂直統合型のバッテリー式電気自動車メーカーであり、自動運転のためのソフトウェアの開発会社である。高級セダン、中型セダン、クロスオーバー・スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)、小型トラック、セミトラックなど複数の車種を手掛ける。2024年の世界販売台数は180万台強。急速充電ネットワークも保有しているのも強み。
注目ポイント(決算発表)
テスラは10月7日、ガソリン車に価格を近づけた手ごろな電気自動車(EV)「モデル3」を発表した。価格は3万6,990ドル(約550万円)からで、同社が長年掲げてきた「大衆向けEV」の実現に向けた取り組みが具体化した形だ。低価格帯モデル投入の背景には、中国メーカーとの激しい価格競争に加え、主力市場である米国でトランプ政権が新車EV購入時の7,500ドルの税額控除を撤廃したことがある。これにより、EVの購入コストが上昇し、テスラの販売環境は厳しさを増している。
9月末には米国政府によるEV購入補助制度が終了したこともあり、制度終了前には駆け込み需要が見られたものの、全体として販売の勢いは鈍化した。10月22日に発表された第3四半期決算では、売上高こそ前年を上回ったが、利益は減少した。背景には、米国の関税強化やサプライチェーンにおけるコスト増加、環境クレジット収入の減少など、複数の要因が重なっている。一方で、テスラはこれまで革新性でEV市場を牽引してきた存在であり、依然として自動運転タクシーや人型ロボットといった次世代事業への成長期待が根強い。足元の収益環境は厳しいものの、同社に対する市場の支持は底堅く、今後もその動向が注目される。

EV/EBITDA
テスラのEV/EBITDAは109.1倍と極めて高水準にあり、GM、フォードの2社を大きく引き離しており、市場から同社への期待が非常に大きいことを示している。一方で、前述の収益環境の変化についての評価次第で大きく変わりうるものであることにも注意したい。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。
ゼネラル・モーターズ(GM)
企業概要
ゼネラル・モーターズは、GM北米、GMインターナショナル、GMファイナンシャルの3部門で事業が構成されており、現在は8つのブランドを保有している。半導体不足により2021年にトヨタに奪われた米国市場シェア首位の座を2022年に奪還しており、2024年の市場シェアは17.0%であった。
注目ポイント(決算発表)
ゼネラル・モーターズは2026年に、対話型人工知能(AI)「Gemini」を搭載した車両を発表すると公表した。ドライバーは運転中でもAIとの会話を通じてメッセージの作成・送信やレストラン検索などが可能になる見込みだ。この発表を受けて株価は上昇し、過去1年間(52週)の高値を更新した。
また、21日に発表された決算では、自動車部門の販売が好調で、EV(電気自動車)の販売台数が前年同期比で約6割増加したことが明らかになった。全体の販売台数は横ばいだったものの、より高単価の大型車が業績を押し上げた。

EV/EBITDA
ゼネラル・モーターズ(GM)のEV/EBITDAは8.9倍で、利益に対する企業価値の水準としては米国製造業の平均的なレンジに位置している。テスラはもちろん、フォードにも大きな差を付けられているのが現状。テスラをはじめ、米国市場を先導するAI搭載戦略やEV販売の差別化が更なる評価改善につながるか注目したい。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。
フォード・モーター(F)
企業概要
フォード・モーターは、フォードブランドおよびリンカーンブランドの自動車を製造する。市場シェアは米国で約13%、英国で約10%、中国では非連結子会社を含めて2%以下となっている。米国の売上高が2024年の全社収益の約68%を占めている。従業員数は171,000人で、そのうち全米自動車労働組合員は56,600人、ミシガン州ディアボーンに本拠を構える。
注目ポイント(決算発表)
フォード・モーターは、事業を3つの主要部門に分けた経営体制を敷いている。ハイブリッド車を中心とする「Ford Blue」、電気自動車(EV)を手掛ける「Ford Model e」、そして法人向け車両販売を担う「Ford Pro」である。さらに、金融サービスを提供する「Ford Credit」も展開しており、リースやローンを通じた販売支援を行っている。
米政権によるEV購入補助制度が9月末で終了したなか、フォードはFord Creditを通じて年末まで一定の販売支援策を継続している。具体的には、EVをリースで購入する顧客が引き続き割引を受けられるよう、Ford Credit部門が販売店の在庫車を一旦買い取り、税額控除の対象とする仕組みを導入した。この対応により、補助終了後も一定の需要維持が見込まれている。
23日に発表された決算では、売上高が前年同期比9%増と市場予想を上回った。テスラが9月末で販売促進効果を失った一方で、フォード・モーターは年末にかけて底堅い販売動向がうかがえる。

EV/EBITDA
フォード・モーターのEV/EBITDAは14.4倍となっており、同社の収益力に対して企業価値が比較的高く評価されていることを示している。今回の決算では大幅に売上高を増加し、商用車(Ford Pro)の成長が大きくでた。更なる今後の利益率改善のスピードに注目したい。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。







